序章。


私は、語られたことは申し述べねばならない。

しかし、それらをすべて信じなければならぬわけではない。

ヘロドトス「歴史」第七巻152。


常にヘロドトスは自分が記述する出来事の現場に赴く。

自分で体験した事が最も確かな知識となる。

自分で見ることができなかった事は。

これは!という証人に質問する。

探究しなくても勝手に入ってくる情報は。

探究の結果よりも信頼度は低いが。

ヘロドトスはそれも書いた。


汎神論。(哲・宗)

神は万物に内在するものであり。

この世のいっさいが神の現れであるとする考え方。



1


森と川と。

蝶々が羽ばたく。

鳥は歌い。

獣は体現する。

人は自然を前に。

自然のなんたるかを知る。

写真家であって。

哲学者タレスの系統を受け継ぐ理世(りせ)

今日も自然哲学を探求し。

世界に関する理解を深めていく。

理世(りせ)
「タレス。」
「万物の起源を水に求めたことで。」
「自然哲学は始まった。」
「アルケー。」

丁度フリースクールから帰宅途中の。

水琴(みこと)が合流。

理世。
「葉っぱに触れて。」
「水に触れて。」
「これが自然なんだなあ。」

水琴(みこと)
「お姉さん。」
「私達が余程不自然という意味になります。」

理世。
「では自然状態における人とは。」
「あるべき姿?」

水琴。
「王様も自然発生したので。」
「人に関するものは。」
「起源において自然発生したものと考えられます。」

理世。
「汎神論ですなあ。」

水琴。
「花々も楽しめるのは人。」
「木の実を味わえるのも人。」

ドレス姿で歩き回る理世と。

ゴスロリファッションが普通の水琴。

姉妹は白髪のロシア系で。

日本風の容姿を併せ持っている。

突然変異でロシア系になった珍しい女の子。

水琴。
「埋め合わせ。」
「は出来ました?」

理世。
「それが難しいんだなあ。」
「女性特有の欠陥を埋めるのは。」
「容易な事ではないし。」

水琴。
「フェミニズム。」
「女性の本性が劣っている。」
「神はそれを埋めよと。」
「欠陥と欠点を補完せよと試練をお与えになられたのです。」

理世。
「しかし女性ひとりで何か出来た試しは無い。」
「ボーボォワールくらいなもの。」

水琴。
「私達の目標。」
「自身の欠陥を克服する為なので。」
「普通の方法では無理でしょう。」

理世。
「フェミニズムについての研究は怠らない!」

水琴。
「欠陥を自覚しているのは私達姉妹の長所ですよ。」

理世。
「女性は特殊な存在。」
「男性が教育などを怠ったから。」
「女性の立場が低くなったのでは?」

水琴。
「それについては的確な指摘がありますし。」
「女性の欠損部分がそうさせた可能性があります。」

理世。
「自分の欠陥については少し知っているから。」
「埋め合わせるように。」
「頑張ろう。」

水琴。
「鳥に訪ねて。」
「世界の真実を知った。」
「私達がいけなかったのです。」
「それもむかしの話になりました。」

理世。
「自然哲学は世界そのものを探求。」
「結局は宇宙まで自然の物ですから。」
「最終的には究極タレスも考察していたのでは?」

水琴。
「星空を観察していたのは間違いないでしょう。」
「なぜ宇宙はああした構造なのだろう?」

理世。
「ビックバン仮説なんてありましたが。」
「この星が出来るずっと前から。」
「宇宙はありましたし。」
「宇宙が出来る以前なんて人の知恵では理解できない。」
「だって。」
「時間だって世界が創造した時に出来たものですから。」
「世界が創造される以前の時間なんてありませんから。」

水琴。
「余計に興味がわいた。」
「創造主はどこにでも居るような。」

一緒に散歩しつつ。

川と崖と峡谷と。

ハイキングコースになっている。

橋が多い。

池もある。

森林と竹藪に囲まれた公園。

あずま屋があって。

市民の憩いの場所。

自然と調和するような街づくりの結果。

市街地でも木々で覆われていて。

都会では至る所が庭園になっております。

絵を描く女性がおりまして。

眼鏡っ娘でベレー帽。

水琴。
「いのりちゃん。」

祈(いのり)
「ん?綺麗な女性を見てヒントが出た。」

理世。
「綺麗!?」
「とまあ当然の結果よ。」
「別に嬉しくはないけれど。」

水琴。
「まあ正直な感想を。」

祈。
「絵画とは被写体そのままを描く必要はありませんから。」
「さっき見た鷹。」
「ちょっとかっこよく描いてみた。」

描いている途中の絵には。

ヒーロー戦隊に出てくるような。

太陽を背にし。

翼を広げて。

大きく描かれた鷹。

理世。
「かっこいい!」

祈。
「これでもカラス最強説が出るくらい。」
「鷹が最強とは断定できない。」
「自然のコスモスがあるのです。」

水琴。
「なんかゲームに出てくるような。」
「必殺技をかます鷹みたいな?」

祈。
「こっちはさっき見たスズメちゃん。」
「完成したけれど。」
「手の平に乗る飼われているバージョン。」
「こっちは破壊された戦車の上に乗る白い鳩。」
「国旗の旗の上に乗るバージョンも仕上げた。」

理世。
「うわー。」
「ピカソやゴッホ。」

祈。
「だって。」
「ピカソやゴッホなしに絵画は出来ないでしょ?」

水琴。
「ベートーヴェンやモーツァルトを聴かずに。」
「芸術について語っちゃう的な?」

祈。
「バッハも入れてよ!」
「クラシックは芸術そのもの。」
「あれぞ音楽!」

水琴。
「星空を観ていれば誰でも芸術家になれる。」

祈。
「自然の模倣が芸術ですから。」

理世。
「芸術の起源は自然の模倣だからなー。」

祈。
「オーケー?」

理世。
「それでは邪魔しないように。」
「立ち去りましょう。」

そのまま街に戻ってくる。

郊外は林や田園地帯で。

中心部は庭園で構成されている。

誰でも農業を趣味にできるもので。

小麦粉や二等米を無料で手に入れる事が可能なんです。

天意(自然の道理)を基本方針とした社会は。

健全であることが求められ。

人の水準も高いものです。

姉妹で家に帰宅。

両親がパイロットをやっていて。

VTOLの技術が確立した今。

輸送の大半は空路で行われている。

自動車に使用するスペースがほとんど無いので。

広々とした街づくりが継続されておりますね。

理世。
「では鍛錬を続行しましょうか。」

水琴。
「親が教えられる事は少ないのかな?」

理世。
「餅は餅屋。」
「子供の育て方を知ったうえで。」
「計画性を持って育てられている。」
「今は自習独学実践。」

水琴。
「個人的な欲望で設けていないと。」
「こぼしていたよ。」

理世。
「欲しいから。」
「これは欲望に従っているだけで。」
「理性に不従順になった欲望に任せているだけ。」
「本当は子供の育て方くらい覚えておかなければ。」
「いつも出産や結婚は義務では無いと。」
「教えられましたね。」

水琴。
「親や子供のなんたるかを知って。」
「私達の親になった。」
「もちろん子供を尊重する。」
「私もそれに答えて。」
「自己確立する。」
「大人になったら個人で意思決定するものだし。」

理世。
「子供のうちは自由意思は制限される。」
「私のように大人になったら。」
「自分で決めていいのよ。」
「他人の考えや思惑なんて関係ないし。」
「自分の思うがまま。」

水琴。
「知っているんです。」
「人をコントロールすることは出来ないと。」
「小さい頃は適切な教師に教わって。」
「16になった今ではほとんど干渉されない。」

理世。
「15まではけっこう生きる術を徹底的に教わったわあ。」
「年齢を重ねるごとに自由にされて。」
「今では26。」
「写真の腕前も玄人になったし。」
「そろそろお金になるかな。」

水琴。
「お姉さんは写真構図をマスターしてますし。」
「その世界でもやっていけると信じています。」

理世。
「応援ありがとー。」
「仕立て屋の方も抜群。」
「いろんな国の民族衣装を販売しているけれど。」
「顧客を変えないお店って理想よね。」

水琴。
「商売は需要ですから。」

理世。
「お客さんの目線で物事を考える人ではないと。」
「商売は出来ません。」
「そう考えると。」
「まだ自分を高められるかも。」

水琴。
「人としての成長は大切です。」

理世。
「それは良識!」

大きい家で。

構造が複雑。

定休日と言えども。

準備は欠かしません。

仕事も長い時間やらなくて。

中には予約する人もいるもんですから。

4時間労働で済む人が多いんです。

(第一次世界大戦前・一日4時間労働で充分な生産が可能だったという証言がある)

書斎は本で埋まっており。

読み漁る理世。

家事をやる水琴。

理世も参加して。

素早く終えてしまう。

作業スピードが速い。

夕食のち。

夜になっていきます。

テラス。

理世。
「クエーサーはブラックホールを動力源とする発行体。」
「とのことで。」
「好きだわあ。」

水琴。
「私は恒星が好き。」
「この星空を模倣したのが芸術。」

祈。
「こんばんわー。」
「混ぜて。」

理世。
「宇宙の事はどう思う?」

祈。
「とっても綺麗だよ。」
「宇宙からヒントを得るのが私の職業。」
「なんてね。」

水琴。
「ロシアの天文学者カルダシェフ。」
「タイプ0では宇宙に出ていない。」
「タイプ1では政治的に安定し。」
「惑星規模で対処する。」
「タイプ2では永続できる文明になる。」
「近くの惑星に移住可能。」
「タイプ3では自力で完結する探査ロボットを駆使。」
「大規模な宇宙調査。」
「さらに銀河を超えて惑星に移住する。」
「人類の計画書みたいなのが公認されていますし。」
「神様も。」
「こうした計画書の作成を望んでおられたのかな。」

理世。
「今はこうして夜空を見ているけれど。」
「いつかは神秘的な光景を。」
「宇宙の領域で見たりして。」

祈。
「未解明なものはまだいっぱいあるよー。」
「そういうのが現実にあるのだから。」
「彼らが言っている現実って一体なんだ!」

水琴。
「むかし言われた言葉です。」
「すべての人は善人か悪人かではなく。」
「正しいか正しくないかではなく。」
「その中間である。」
「アリストテレス。」
「形而上学・第五巻。」

理世。
「私達は義であるので。」
「善人か悪人かなんてあんまり考えない。」

祈。
「少しでも神の心にかなった者になれるように。」
「おお。」
「流れ星。」

水琴。
「一瞬の光となって消えた。」
「自然はあのような奇跡を。」
「いつもの通りに説明しているから。」

祈。
「汎神論!汎神論!」
「世界は美しい。」
「私達は創造主たる神の御名を貶めているのだ!」

理世。
「厳しい!忠言!」

水琴。
「最初に御言葉ありき。」
「望遠鏡があるよ。」

9時を過ぎると。

掃除屋と言われる。

軍人たちが見回りに出ていき。

不審者や愚者を見張っています。

けっこう頻繁に見かけるので。

治安維持として欠かせない存在ですね。

全員が天意に沿っているか?で自分を見ているので。

我が強い人は珍しい。

両親はフライトを終えて帰ってきて。

姉妹は食事の用意を済ませてありました。

いのりちゃんと一緒に。

カモミールティーを飲んで。

フリーダムな社会は寛容で。

リベラリズムが鉄則。

人の水準が高い為に。

かえって愚者が謎の存在であると言われています。

祈。
「最近は環奈ちゃんが同世代で優秀なんだって。」

水琴。
「あの勇者の女の子ですか?」
「あれほどよく鍛えられた女の子は感心です。」
「本物のお手本には居て貰わないと困りますから。」

理世。
「ほんと。」
「時代の象徴なんて人物は必要不可欠。」
「しばらく新聞は釘付けねー。」

両親はへとへと。

空路の調整や。

繊細な技術が求められるパイロット。

機体の操縦には冷静さが求められる。

というのは第二次世界大戦のエースパイロットがもらした。

空戦の奥義。

空戦においての興奮は禁物。

祈。
「では帰って。」
「祈りを捧げないと。」
「平和でありますように。」

水琴。
「また共に喜びましょう。」

理世。
「友好を記念してお菓子を差し上げよう。」

満天の星空の下に。

女性は自らの欠陥を埋めようと。

その日を摘みます。

これは自分の為に。

昆虫が歌う夜道に。

寝静まった静寂の次に。

満月がそっと照らすは。

夜の世界。

自然を見るや。

己の不自然さを見出して。

自然体になる末。

無為自然。


2


フリースクールで親しいフェーミナちゃん。

金髪で。

スカートファッションを好む。

美少女系志向の女の子。

スクール自体が余暇を残して終了するので。

たまに一緒に帰っては。

寄り道したりも。

フェーミナ。
「それでは。」
「砂糖の塊では無い?」

水琴。
「最近のスイーツは砂糖をあんまり使いません。」
「むかしは脂肪と砂糖の塊でした。」

フェーミナ。
「お菓子はそうでなくちゃ。」
「素材の味を活かして。」
「砂糖のごり押しはしないってわけね。」

祈ちゃんが絵を描いていて。

今日は川の傍で。

釣りをする人と一緒に描いてます。

フェーミナ。
「順調のようね。」
「邪魔してはだめよ。」

祈。
「んー?いいよ。」
「その積もりでここにいるし。」

水琴。
「けっこう売れそうですね。」

祈。
「個人用の芸術作品と。」
「販売用の装飾用と分けてるから。」
「余裕は必要でしょ?」
「フィギュアから発見したもの。」
「あれって置物としては不合格な作りになっている。」

フェーミナ。
「コレクターズアイテムですからねー。」

祈。
「絵画も装飾用に適した品物だったら。」
「売れるに決まってるでしょ?」

フェーミナ。
「いくら儲けたの?」

祈。
「さあて。」
「必要な金額は確保してるしー。」
「なんたって方法を確立しているしー。」
「教えてほしいのなら?」

フェーミナ。
「そんな大金は持ってない。」
「画家さんも方法があるんだなあ。」

祈。
「適性ですよ適性。」

水琴。
「メソッドが興味深い。」

祈。
「自然発生したものを描くのが芸術。」
「無為自然に描くのが芸術の神髄。」

フェーミナ。
「これはなに?」
「後で要求したりはしないよね?」

祈。
「あはは・・・。」
「真似できる人はいないから。」
「別に言ってもいいけれど。」
「そっちがそのつもりなら。」
「ちょっと?ふたりで?」

フェーミナ。
「猫みたいにあんなことやこんなことをするわけ!?」

祈。
「ふふふふ・・・・。」
「悪いようにはしませんよ?」

フェーミナ。
「やだー!でもお年頃だから。」
「興味が無い訳ではないし。」

祈。
「さあ欲求に身を任せて。」
「選択可能性を失いたければ?だけど?」

フェーミナ。
「ああ!行為者性!」
「二階の欲求!」

祈。
「欲求に操られる?どうする?」

フェーミナ。
「よろしくお願いします!」

祈。
「では服を脱いで。」

フェーミナ。
「んなわけあるかー!」

祈。
「ああ私の変態!」
「きゃあああああ!!」

水琴。
「あれー?待ってー。」
「行っちゃった。」

帰宅。

着替えて。

遊びに出かけます。

近くにいたリスに尋ねました。

水琴。
「生き物ってなあに?」
「命ってなあに?」

リスは無言で答えました。

それはボクのことだよ。

あなたも同じでしょ?

リスは立ち去った。

道中目撃。

祈。
「制作で一番怖いのは。」
「描いている途中に自惚れてしまうことです。」

理世。
「私にもあるぞー。」
「後から見直してみると。」
「いつも疑問に思うのだが。」
「これは主観なのか客観なのか。」

祈。
「客観的な意見っていつも不足してますよねー。」

移動中のお姉さんと祈ちゃん。

先ほどの場所を通り過ぎます。

休憩が終わって着替えてきたフェーミナちゃん。

鏡を覗きこんで。

自分を見ています。

フェーミナ。
「美しい。」
「しかし容姿端麗というのは女性の必須条件であって。」
「目的ではない。」
「女性というもの。」
「どうすれば女性になれるのか。」
「女性にもわからない。」

水琴。
「最後には夫の寝床に収まるのが女だったら?」

フェーミナ。
「変よね。」
「それなら女は男の為にいるもんじゃない。」
「例外の説明が付かないわ。」
「修道女は結婚してはいけないし。」
「聖女まで話が進むと。」
「自分たちで作った女性像を盲信しているという意味じゃないの。」

水琴。
「女性たちは自分で立場を作って。」
「また新しく作らないといけない。」

フェーミナ。
「妻になるのが女の目的であったのなら。」
「説明できないことばかりよ?」
「それが本当ならば。」
「女性に人権は必要ないじゃない。」

水琴。
「誰もが女性について知ったかぶり。」

フェーミナ。
「そういうのが真相なんじゃないの?」
「というか今のって。」
「フェミニズムとして有益な意見なのでは。」

水琴。
「メモしておこう。」
「ほんと。」
「理法に逆らえた試しは無いです。」
「悪党ですら大義名分という正義を失えば。」
「自壊してしまうから。」

フェーミナ。
「私達は義ですから。」
「自分をよく観察するのが日課。」
「私って綺麗?」

水琴。
「それは鏡を見てあなたが一番よく知っていることです。」

フェーミナ。
「そっかー。」
「容姿だけでは無いってこと。」
「見せてあげるから。」

バドミントンのラケットを持って。

そのうち。

仲間がいっぱい入ってきて。

フットサルコートに移動。

お互いのチームリーダーになって。

得点なしのフリーゲーム。

お遊びなので。

どんな洒落が出来るかが査定ポイント。

観客は拍手。

フェーミナちゃんは。

相手を引き付けてボールキープしてくるので。

釣られて動いてしまうと。

マークした人数を差し引かれて。

防御ががら空きになってしまうので。

おまけに!

ボールを持った時の敏捷性が高くて。

武器を持っているプレイヤーはやっぱり強い!

チームプレーで対抗するも。

蹂躙された試合でしたね。

フェーミナ。
「はあ激戦。」
「私ひとりに負担があるから。」

水琴。
「技能が違う仲間が集まっているから。」
「それに合わせてこそのキャプテンだよー。」
「水分補給。」

夕方に差し掛かったので。

解散。

コンビニエンスストア。

フェーミナ。
「粗塩をひとつまみ入れた。」
「味噌汁。」

水琴。
「カロリーメイト。」
「予防は治療に勝る。」

フェーミナ。
「病気は待ったなし。」
「それがこの世界。」

水琴。
「健康って大事。」
「最初からある上に人はいろいろ建てているような。」

フェーミナ。
「自然権と自然法は誰もが知っているけれど。」
「人権にまで話が及ぶとややこしい。」

水琴。
「誰もが権利を叫んでも。」
「悪平等。」
「むかしむかしは権利が盛んに議論されたもの。」

フェーミナ。
「権利と言いましても。」
「むかしむかしは。」
「疫病とか自然災害。」
「特に洪水で苦しむ人々がおりました。」
「それが現代にもあるということは。」
「考え方が間違っているという意味になります。」

水琴。
「私は自由の結果を知った。」
「自然と人は無関係ではない。」
「食物も水も自然から貰うもの。」

祈。
「あはー発見。」
「次は裸婦を描きたい。」

フェーミナ。
「きゃああああ!!」
「変態!!」
「と言いたい所ですが。」
「相手は女性ですし。」
「自慢の体を見せびらかしたり?」

祈。
「いいの?いいの?」

フェーミナ。
「もしもの話よ!」
「あんたなんか珍しく下品な絵を描けばいいのよ。」

祈。
「珍しく?」

フェーミナ。
「かえってあなたのを見てみたいわ。」

祈。
「わたし?わああああ!!」
「そ・・・そんな!!」
「自分のしていることが分かりました!!」

逃げ出した。

フェーミナ。
「私もお年頃?」
「またね。」

走って立ち去る。

水琴。
「案外道化師なのかな?」
「早歩き。」
「夕焼けが綺麗。」

帰宅。

理世。
「いま家事は全部済ましたところ。」
「有能とは私のことである。」

水琴。
「ここに埃があってよ?」

理世。
「ぶっ!姑さん。」
「重箱の隅を楊枝でほじくる。」
「今回は私の取り分だったわけ。」

水琴。
「臨機応変。」

理世。
「物事は変化するもの。」

水琴。
「人は複雑な物事を単純化して考えるからね。」
「それは認識を誤らせる欠陥。」

理世。
「物事はいつも複雑怪奇。」
「とまあ妹ちゃん。」
「連携は抜群という訳です。」

水琴。
「あなたとは偶然会ったとは思えない。」

理世。
「それは私も実感していること。」
「でも婚姻話はタブーですよん。」

水琴。
「承知している。」

両親が帰宅するまで。

チェスをやって遊んでいましたよー。

10戦7勝。

理世。
「今日は・・・ちょっと勝てないかも。」

水琴。
「こんなまぐれは続きませんよ。」

理世。
「いや・・・。」
「急に強くなったね・・・。」

お姉さんは妹について再評価することにした。

両親は帰宅時間は決まっていなくて。

早くて夕方5時ですから。

それまで姉妹で連携する。

私達の目的は。

女性としての欠点と欠陥の補完にありますから。

些細な事でも訓練は欠かさないのです。

夕方には決まって帰宅してくるお姉さんと一緒に。

怠惰・怠慢と格闘です。


3


水琴ちゃん。

山に入って。

森林浴。

新鮮な空気を吸って。

山道は健康そのもの!

遠くに誰かいて。

近づいてきましたよ。

花々を撫でて。

葉っぱを摘んでは。

落ちている木の実を選別して。

食べて。

こっちにもくれました。

柚月葉(ゆずは)
「久しぶり。」
「理世は元気?」

水琴。
「便りの無いのは良い便り。」

柚月葉。
「おお、よく出来た少女。」

男性のような雰囲気がありつつ。

やっぱり女性という。

中世的な女性。

男装すると判別できないかもしれない。

木々に背を預け。

大きなメイスを横に置く。

水琴。
「ファーブラー公の娘さんでしたね。」

柚月葉。
「変わり者と言われています。」

水琴。
「それを正しく理解する場合。」
「そこまではっきりとした違いがあるのは。」
「個性的だという意味です。」

柚月葉。
「機械的な人間が好みなのでしょうか。」
「それとも。」
「誰もが個性皆無故に変わり者と言われるのか。」

水琴。
「ハイエナとライオンは違う生き物です。」
「トンビとカラスも別物です。」
「人も自分というものを持っていますから。」
「それらが存在しない人達が。」
「羨ましいと嘆いているのだと思いますよ。」

柚月葉。
「それは有り得る。」
「人は異なる故に違いを認め合い。」
「共存しようとする努力はみな怠らない。」
「私も同じ。」

花々を撫でる。

水琴。
「梅の花も。」
「触れたりする人はまず居ないです。」

柚月葉。
「せっかく咲いたのに。」
「さっき見つけた木の実がまだあるよ。」
「けっこう美味しいから。」

水琴。
「これってどうやって見つけるの?」

柚月葉。
「探し方だね。」
「食べ物の探し方を知らないと。」
「いくら山に入っても見つからないよ。」
「さっき木からデンプンを取り出して焚き火してた。」
「余りがあるから食べてみて。」

水琴。
「おお!これはお菓子よりも?」

柚月葉。
「山を知らない人が山に入ると。」
「予想外の怪我や事故があるから。」
「昨日はクマをぶっ殺した。」

自衛用のメイスは大きく。

距離を取って軽く振り回す。

水琴。
「そんなに軽々?」

柚月葉。
「実は先端に重量が乗っていて。」
「戦闘での立ち回りに優れているのだ。」
「刃があって。」
「殴ると大傷になる。」

水琴。
「それでクマを?山の主を?さすがです。」

柚月葉。
「最近小さな家を譲り受けて。」
「この辺りに引っ越したから。」
「理世によろしく。」
「もう少し放浪の旅をする。」

水琴。
「メモしておきます。」
「お姉さんは喜ぶでしょうし。」

柚月葉。
「サンキュー♪」
「またどこかで会いたいなー。」

馬がやってきて。

平地から伸びている道に停止。

飛び乗って立ち去る大人のお姉さん。

ファーブラー公の娘さんで。

ファーブラー公は何か考えがあるのだろうと。

いろいろ与えてくれているとか。

民衆からは織田信長公に姿が重なると評判があります。

若い日は鍛錬の日々を送り。

小大名から有力者に。

足利将軍に仕えるも。

仲違いしてしまい。

天皇に忠誠を誓う。

悪評がついてしまったものの。

天下統一による乱世の終焉。

その二歩前に差し掛かった時。

乱心した明智光秀に討たれたと伝えられる。

理世。
「ゆずはが近くに?」
「これは少し酔狂な遊びができそうだー。」
「でも妹ちゃんが来るのを知っていたのかな?」

水琴。
「山に出入りする人を全員知っているようです。」

理世。
「待ち伏せかー。」
「垣根を作れば友情は保たれるもんなー。」
「面白くなった。」

休日。

DFチャレンジで遊んでいる仲間。

ドリブルでいかに芸術的な避け方をするか評論しあうボール遊びで。

最近はこれがメイン。

水琴。
「相手の動きを読まないときつい。」

フェーミナ。
「スピードで単純に抜くのはスタンドプレーにはならない。」

祈。
「スポーツ女子もいいもんですなあ。」

フェーミナ。
「こら!どうせなら英雄ナポレオン画みたいに誇張しなさい!!」

祈。
「ひぃ!ごめんなさい!そういうの忘れがちで。」

水琴。
「単純な仕掛けでは抜けないなー。」

いつもの通りに拍手して。

点数の高い人は出ませんでしたが。

優劣が付けられない試合だったのです。

さすがにドリブラーだけが参加するので。

誰が最高かは評価できなかった所が真相。

柚月葉さんが丘の上からこちらを見ていて。

馬に乗っておりましたが。

しばらくして立ち去りました。

祈。
「ナポレオンの件ですが。」
「ゆずはさんに変更してもよろしいですか?」

フェーミナ。
「こらー!確かに浮気するのは理解できる。」
「でも私が題材なのよ!最後まで書きなさい!」

祈。
「そうですよねー。」
「どっちも好きで。」
「はあはあ・・・。」

フェーミナ。
「ほらー。」
「目の前でポーズ取ってあげる。」

祈。
「もう少しいけないポーズを。」

フェーミナ。
「あなたにしてあげる?」

祈。
「ちょちょちょどこ触ってるんですか。」

フェーミナ。
「私が絵画になるのよ。」
「あんたの趣味にサービスしてあげるんだから。」
「きちんと仕上げて。」

祈。
「分かってますよ!」
「もったいない。」
「あなたがもうちょっといけない女の子だったら。」
「素晴らしい絵画が美術館に飾られている筈。」

フェーミナ。
「ちょっと!まだそんな事を!」

祈。
「やだなー。」
「美術的にあなたを観ているんです。」

フェーミナ。
「それはある意味褒め言葉よね。」

水琴。
「私は夕日を観察してくる。」
「今日はこれで。」

フェーミナ。
「次もハイパーでウルトラな美女の姿を。」
「また見る事になるわ!」
「覚悟しなさい!」

水琴。
「覚悟なら・・・出来ている!」

仲間は早めに解散。

丘の上から。

わたしが求めているもの。

永遠のひとつの形。

自然を模倣したのが芸術。

夕日に照らされると。

それが確信になって。

知識になりましたね。

体験するまで。

これは未知のもの。

同じ川に二度と足を踏み入れることはできない。

そのお知らせが。

夕暮れ時です。


4


学生向けのプラグラムに応募。

現在。

大型機用の滑走路におりまして。

観測機に搭乗して。

遥か上空。

台風の目が見下ろせて。

観測機は通常の航空機が上昇できない高度まで。

到達することが可能です。

水琴。
「地上のいかなる怪奇現象も。」
「超越した景色。」
「こちらの方がいかなる迷信も打ち破る。」
「超常現象と言える。」

よく考えてみれば。

自然現象の方がオカルト的な迷信よりも。

ずっとかスケールが大きく。

確実で。

実存するものですねえ。

フェーミナ。
「自然現象を解き明かして使うのが科学。」
「彼らの言う科学って一体なんなの?」
「目の前の景色の方がよっぽど雄弁。」

水琴。
「信じようが信じまいが。」
「宇宙はなぜ出来たのだろう?」
「そしてこの台風はなぜ存在するのだろう?」

フェーミナ。
「では人という存在はなぜ誕生したのだろう?」

水琴。
「そっちの質問の方が科学で説明できないものです。」

フェーミナ。
「哲学は元祖学問ですからなー。」
「でも大丈夫。」
「人間という小さな存在が。」
「神様を理解することは無理があるからねー。」

水琴。
「それを不可知論と言うんだよん。」
「宇宙を説明してください。」
「なんて言われたら?」

フェーミナ。
「そこも大丈夫。」
「いかなる疑問を持っても。」
「そもそも人ってなあに?」
「自分を説明できないから。」

水琴。
「神様は寛大ですから。」
「反抗期な人にも優しいのです。」

台風の目は大空に広がって。

中心は晴れています。

白い雲が渦になって。

その遥か上空を飛行しているのですから。

これも自然現象なのだと実感。

そのあと強風の飛行場に着陸致しまして。

感想文を提出しましたら。

翌日。

民間の競技団体からお誘いがありまして。

機動兵器に乗せてもらえるみたい。

訓練場では。

民間に払い下げられた旧式兵器ME-15が仰向けで置かれていて。

有力な人材を見つけては。

動かして研究しているそう。

素早く乗せてもらえて。

わくわく。

スタッフ。
「操作方法は簡単ですよ。」
「操縦だけは楽勝。」
「まず両手にグローブ形式の操縦桿を持ちます。」
「これは両手の動きをマシンに伝えますので。」
「いろんな動かし方ができますし。」
「グローブ型は半分固定されますので。」
「たまに外さないと余計な動作を引き起こします。」

水琴。
「あっ!簡単。」

スタッフ。
「足部も同じく。」
「ブーツ式の操縦桿で。」
「足の動きを調節できますが。」
「下手に動かすと転倒するので。」
「基本的にはコンピューター制御になります。」
「計器は何もしなくていいです。」
「簡易操作モードになってます。」

水琴。
「エンジンスロットルは?」

スタッフ。
「普段は車輪移動かホバー移動になりますが。」
「操作は複雑なので。」
「コンピューターに入力すればいいだけですよ。」
「テイクオフ。」

足部にスラスターがあって。

ホバー移動。

背中にプラズマジェットエンジン。

両足にも小型のエンジン。

計三基。

背中のエンジンは発電用で。

ジャンプする時だけ使用するとな?

背中の両側には燃料タンク。

武装は外されてます。

軍事雑誌では。

右手にマガジン式73ミリ滑腔砲。

左手にAGM-65Hマーベリックランチャー。

肩部には換装用88mm高射砲が装着されている。

予備武器。

腕で取り換える。

マガジン式の73ミリ滑腔砲はある程度の連射が可能。

88mm高射砲はマガジンを取り換えて。

連射が可能で弾数が多い。


機動兵器は機関銃で武器が破損する事が多いので。

欠かせない予備。


肩部には燃料タンクなど。

腰部にも燃料タンクと。


サイズは戦闘機よりちょっと大きいくらいで。

ME-15について。

説明されておりますが。

この機動兵器は旧式ですので。

最新型と比べて洗練されてはいません。

ここでは!という戦場に投入され。

対空車両が天敵だと言われています。

水琴。
「動きが遅い。」
「ちょっと私についてこない。」
「滑る。」

スタッフ。
「変則的な動き。」
「いままでのパイロットとは違う。」

水琴。
「兵器の性能に頼りたくはないし。」
「機体のせいにしたくない。」

スタッフ。
「指定された動きをしてみてください。」

水琴。
「わあ。」
「一体化した動きをすれば。」
「性能が不十分でも使えるには使える。」
「高性能機に慣れてしまうと。」
「技能自体に限界が生じてしまう。」

スタッフ。
「いい動きです。」
「変則的な動きは中々観測できないので。」
「もう少し続けてください。」

機動兵器は踊るかのように。

スラスターを吹かして。

飛び跳ねて。

なおかつ無理な動作がない。

見事な演武となりました。

スタッフ。
「あなたを推薦して正解でした。」
「今後ともよろしくお願いします。」

水琴。
「こちらこそ。」

スタッフ。
「今度は実弾試験でも?」
「しかし戦争に導くのは気乗りしません。」

水琴。
「戦争は必ずあるものなので。」※マタイの福音書24章6節。
「仕方がありません。」
「戦争は常に必然なのですから。」
「必要があればやってみたい。」

スタッフ。
「私達はこんなことをしつつ。」
「平和の道を見出そうと努力しております。」
「即答なんて求めません。」

水琴。
「そのつもりです。」

翌日のフリースクール。

好きな事をやって過ごしますが。

私はいにしえの賢者の書物を読んで。

内容を実践するのが好きです。

フェーミナ。
「機動兵器どうだったー?」

水琴。
「素敵な乗り物でした。」

フェーミナ。
「人の力の象徴だからー。」
「それはまあ想像以上に素敵な兵器なんでしょう。」
「戦闘機とかそういうの作れる人の努力と文明の進展。」
「個人的には軍事が進めば技術も民間に払い下げられるから。」
「戦争があったから科学も進んだという真実?」

水琴。
「まだ私達は戦争をしなくてはならない。」
「争いをしなくてはならない。」
「自然状態は古代から続いていて。」
「脱出するように。」
「人は獣を卒業するように。」
「務めないとね。」

フェーミナ。
「神は彼らを試み、彼らが獣にすぎないことを、彼らが気づくようにされたのだ。」※伝道者の書3章18節。

水琴。
「それは箴言ですから。」
「素敵な教訓として活かせています。」

フェーミナ。
「しかしまあ。」
「これからは女性の時代ですなあ。」
「有能な女性が社会に溢れていて。」
「負けないようにしないと。」

水琴。
「確実な平和は期待された勝利に勝り。」
「かつ安全であると伝えられています。」
「勝利に執着せず。」
「平和を取るほうが結果としてはすごく良いみたい。」

フェーミナ。
「そうですよー。」
「私の主権は渡さない!」

まず自分が何であるか。

それに値するかどうかは示さなければなりません。

主張しても意味がない。

その権利や称号などが相応しいか。

人は示す必要があります。

次の時代を支配するのは女性なのでしょうか?

大昔に流行していた男尊女卑が。

いまでは面白い冗談のようで。

女性が女性を見出す過程の出来事。

ちょうど。

私達が義に至る道筋の出来事。


5


山の中でスナイパーライフルを持ち。

索敵戦を繰り広げる柚月葉。

援護する理世。

理世。
「平地に出たぞ。」

柚月葉。
「お・・・ぉぉぉぉぉお願いします!!」
「死んで頂けませんか!?」

それは不意打ちになって。

シカを仕留めました。

普段は罠を獣道に置くのですが。

この日は偶然持っていたスナイパーライフルが活躍。

理世。
「ごちそうが出来たなー。」

柚月葉。
「またこうして遊べてなにより。」
「午後はラジコン飛行機を飛ばしてみる?」

理世。
「それは名案。」
「どんな華麗な飛行が出来るか。」
「競ってみよう。」

昼食。

水琴。
「今日はシカ肉?」
「美味しいね。」

理世。
「射殺してしまえば食材だよ。」

柚月葉。
「生きているうちは生き物で。」
「獲物でもある。」

水琴。
「食材でもあるんですねえ。」
「私は食べる目的以外では殺しませんが。」

柚月葉。
「遊びで射殺する馬鹿はいませんよーだ。」

水琴。
「それはそうでしょう。」
「家畜も食べられる為に生まれた生命体。」
「戦争や災害では命について考察されますが。」
「結局は充分な理解がないのです。」

フェーミナちゃんにも分けてあげようと。

冷凍して持っていきます。

フェーミナ。
「あなたの眼鏡は頂くわ。」
「あれ?けっこう美形じゃない。」
「メガネが無ければモデルになれるわ。」

祈。
「確かにそうですけれど。」
「私は私です。」
「他人は他人。」
「全く異なる存在ですから。」
「こうあるべきだとか。」
「正解とか答えとか。」
「そんなものはないんです。」

フェーミナ。
「あたりまえじゃない。」
「多様性の世界では。」
「お互いの相互理解と共存する努力が求められる。」
「考えを押し付けあったら?」

祈。
「そんな幼い人間なんていませんよー。」
「ちょっとあっちでやることがあるので。」
「返してください。」

水琴。
「これあげる。」

フェーミナ。
「鹿肉?これは豪勢な。」
「たまにはこういうのもいいよね。」

水琴。
「食用の虫とか食べてみたい。」

フェーミナ。
「あれは見た目を裏切って美味しいよ。」

水琴。
「虫も自然の一部ですからなあ。」

フェーミナ。
「自然と言うと。」
「人も弱肉強食だと誤解されがちだけれど。」
「そう唱える人は動物に過ぎないから。」
「被造物たる人は神の形に造られた。」
「獣みたいに振る舞っていいわけではない。」

水琴。
「その通り!」
「鹿もこうなるのが宿命だったのです。」

フェーミナ。
「ところで。」
「そっちでなにしているの?」

祈。
「らりるれろー!?」

フェーミナ。
「うわっ!いきなりなに。」
「発狂した?」
「でもあなたのことだから。」
「いつものことでしょうけれど。」

祈。
「発声練習だよ!」
「こっちに来ないで!」
「詩句を読みつつ木登りしようと準備中。」
「というか狂っているのが普通ってどういう理屈だー!」

フェーミナ。
「ごめんなさい。」
「ありのままを言うって勇気が必要よね。」

祈。
「あんたはキラキラしていればいいんだ!!」

フェーミナ。
「宝石みたいでいいでしょ?」

祈。
「あんたが宝石なら私は黄金だ!」
「輝かしい時を過ごす。」
「そして尊い事ばかりするこの私だ!」

フェーミナ。
「なにをっ!」
「私は・・・エメラルドとか。」
「天然石とか。」
「プラチナなんだから!」

祈。
「金塊を前に張り合えるのかしら?」

フェーミナ。
「中々いい構図じゃない。」

木に寄りかかってお菓子を食べて。

見物している水琴。

祈。
「とりあいず。」
「私は木登りする。」

フェーミナ。
「私はあと何をすればいいんですかと。」
「問い合わせるしかない。」

祈。
「一緒に詩句を読みながら。」
「山道を駆けていくかい?」

フェーミナ。
「まあ立ち去ることにするわ。」

祈。
「私の行動に興味あるってこと?」

フェーミナ。
「否定しないわ。」

着ぐるみを身にまとった人が通り過ぎて。

イベント期間中でしたね。

娯楽政策で。

ターゲットと呼ばれる人からメダルを奪えば。

ルーレットを回すことが出来て。

景品が手に入ります。

ただ。

ターゲットも強いので。

おまけにメダルを持っていない場合もあるんです。

フェーミナ。
「おや?追いかけてみましょう。」

水琴。
「雰囲気からして。」
「互角みたいです。」

お花畑で追いつきまして。

勝負することになりましたが。

歩兵クラスの戦闘力があるそうなので。

迂闊に仕掛けません。

前後で挟んで。

同時に仕掛けて。

ポケットからメダルを一枚奪って。

投げ抜けしながら逃走に成功。

街の中心街では。

出店もあって。

賑わっておりますね。

大道芸人や歌手が各地を巡回していて。

自分たちで盛り上げるのです。

フェーミナ。
「一枚?それだけだった?」

水琴。
「相手が回避運動を取ったから。」
「着ぐるみのハンデがあっても。」
「他のポケットは探れなかった。」

フェーミナ。
「私もなんとかリード・ハンドで避けたわあ。」
「レファレンス・ポイントを複雑に絡めたら逃れられた。」
「相手もジークンドー使ってくるし。」
「まあ充分でしょう。」

福引は高級な筆。

水琴。
「これ使いたい。」

フェーミナ。
「私は使わないから。」
「あなたの物よ。」

ターゲットは町はずれの小屋などに出没するので。

良い訓練になってます。

楽しみも必要ですね。

帰宅してみると。

おっと今度は野草の天ぷら。

理世。
「お?雰囲気が違ってきたね。」

水琴。
「そう?」

理世。
「骨があるんだよきっと。」
「自分を成長させる人は意外と少ないもので。」

水琴。
「私は一段階グレードアップしたのかな。」
「客観的な意見は貴重なのでありがたいです。」

理世。
「社会にも飛びぬけた存在は欠かせないから。」

水琴。
「それもそうでしょう。」
「結局は自分の為ですから。」

理世。
「個人主義の方が理にかなっていたりしてね。」

価値判断は個人に帰属します。

絶対的な価値観の形成は困難の極みですが。

個人に帰属する価値判断は自分自身の宿命。

私は全体ではありません。

独立した個人なのですから。

他人の考えなどは参考程度。

自分の知るままに。

自分の目標に向かって。

ゆっくり急げ。


6


コンコルディア神殿。

近くに池が設けられていて。

鯉が泳ぐ。

繋がっている河川すぐ上流には。

湖があったりします。

理世。
「完璧というのは故事から来ているらしい。」

柚月葉。
「完全無欠ってのは無理難題。」

水琴。
「健全にはなれますよね?」

柚月葉。
「健全にはなれるよ。」
「人の目指すところはまず。」
「健全になることなんだと思っていますし。」
「良識を身に着けることも基本でしょう。」

理世。
「偏らず適切、健全な考え方。」
「そういう態度の見識。」

水琴。
「良心的かどうかも人にとって大切です。」

理世。
「道徳的な善悪をわきまえ。」
「正しく行動しようとする心。」
「良心は尊い。」

水琴。
「完璧ではなくて健全になろうと頑張る。」

柚月葉。
「少なくとも。」
「人という存在が完全無欠とか。」
「全員が義人とか正しいとかはどこにも書いてない。」
「むしろ否定的なもんだから。」

理世。
「とりあいず誰かを下手に正しいと名指しすると。」
「取り返しがつかない事になるし。」

水琴。
「賢くて道理に明るいですね。」
「未来もきっと太陽の下にあるよ。」

柚月葉。
「未来?」
「未来は主観であって。」
「ついでに過去も主観なので。」
「私には分からない。」

水琴。
「そう言われてみると。」
「未来や過去に根拠はありませんよね。」

理世。
「そういうわけよ。」
「おまけに。」
「客観を正しく認識できるかは不明で。」
「客観が正しいと証明できるかはもっと不明。」

水琴。
「汝自身を知れ。」※デルポイのアポロン神殿(柱)に刻まれている教訓。
「何でもできるわけではない。」
「何をやっても許されるわけではない。」
「あなたは神ではありません。」
「深い言葉のことわざが心に沁みます。」※ディオゲネス・ラエルティオス「ギリシア哲学者列伝」

理世。
「おませ?」

柚月葉。
「いいえ。」
「早熟なタイプなんだと思いますよ。」

家に戻ってきました。

なにやら広場で誰かが演説。

見に行きましたよ。

でもそのうち。

激怒した聴衆に投石されて。

その人は逃げてしまいました。

水琴。
「なんですかあれ?」

市民。
「無政府主義者だよ。」

夫人。
「あなたも警戒しなさい。」
「弱小国で繁栄している。」
「危険思想者の仲間よ。」

水琴。
「ああなんと。」
「そんなのが演説していたんですねえ。」

広場の隅っこにある。

オープンカフェ。

水琴。
「無政府主義者が出たって。」

祈。
「知っとります。」
「相手に問題があったら。」
「もうしょうがないので。」
「正当防衛っていう理由で追い払いますよ。」

水琴。
「得意な武器が無いから。」
「追い払えるかなあ。」

戦士。
「公共の敵と戦えるなんて。」
「わくわくしてしょうがないよ。」
「見つけたらすぐに知らせてくれ。」

水琴。
「力は正義なり。」
「ザコ相手に私は何を言っているのか。」

戦士。
「それは君が自分の力量を知らないからだ。」

水琴。
「正直に言いますと。」
「図星です。」

祈。
「それよりも発見があったんだ。」
「古書のコピーをあげる。」

水琴。
「どれどれ?」
「アリストテレス詩学。」
「悲劇は最初と中間と終わり。」
「このような構成の形式がある。」
「これはギリシア式の戯曲に見られる傾向ですが。」
「元祖創作論のアリストテレスはもう確立していたんですね。」

祈。
「古典って素晴らしいじゃない。」
「私の手元に置いておくのはもったいなくて。」

水琴。
「ありがとう。」
「貰っていきます。」

家に帰宅しますと。

すぐに誰かが訪問。

水琴。
「誰ですか?」

無政府主義者。
「これから良い話があるのだが。」

水琴。
「小さく見えるな。」

頭を叩いたら。

相手はノートで叩き返してきましたが。

正面からズレて陣取っていたので。

レファレンス・ポイント。

打ち払って。

もう一回頭を叩いたら。

不審者は逃げました。

馬に乗った柚月葉さん登場。

水琴。
「向こうに行きました。」

柚月葉。
「オーケー。」

理世。
「変な奴が出たって!?」

水琴。
「説伏してきたので追い返しましたよ。」
「悪徳セールスでしょうか。」

理世。
「勧誘よ勧誘。」
「追い返したのね。」
「一人前!!」

水琴。
「なんということでしょう。」
「これもひとつの勝利なのです。」

試合ではなくて実戦で勝利したのは大きいです。

小さな勝利でしょうけれど。

私にとっては実戦で立ち回れたのが収穫でした。

このあとすぐに。

掃除屋さんが無政府主義者を地域から追い払ったので。

変なセールスマンは居なくなりました。

ひょっとして生け贄になってくれたのかな?

思ったより自分の力量があって。

結果として現れるのは最高ですよ。

またひとつ目標に近づけたかな?


7


お姉さん宛に手紙。

お姉さんは機嫌が悪い。

水琴。
「どうしたの?」
「女性は確かに気分はころころ変わりますが。」

理世。
「私に何を期待しているのだろう?」

お姉さんは出かけてしまい。

手紙は金色で豪華。

放置されたその手紙の内容は。

失われた王族の復刻。

人類の限界を自ら試す。

そのための独立が欲しい。

という依頼で。

名だたる人物に声をかけている。

水琴。
「これって戦争に発展しますよね?」
「いいのかな?」
「無許可で独立宣言なんて。」
「差出人は?」

森の中の小屋で。

密会。

柚月葉。
「地域の有権者に片っ端から声をかけ。」
「金塊まで贈られた。」
「承諾したと見なされたなあ。」

理世。
「交友関係も把握されていて。」
「私も巻き添えかい。」

柚月葉。
「とまあ迷惑な火の粉もふり払わないと。」
「わたしら担がれたわけだし。」

理世。
「家族会議があるんだって?」
「冗談ではないな。」

柚月葉。
「どうやらもう参加したことにされたらしいし。」
「これでもかと。」
「暗号文が届いて。」
「不審者が話しかけてくる。」
「でもいいんだ。」
「代表者が名乗り出てきて。」
「そいつには死んで貰うから。」

理世。
「反逆者の首を持っていけば。」
「確かに。」
「仲間では無いことは一目瞭然。」
「それで接触は?」

柚月葉。
「それがねー。」
「じわりじわりと嫌らしい方法で来るのさ。」
「ずっと前からそんな手紙が送られてきて。」
「お父様も困惑している。」
「私が仲間かもしれないと。」

理世。
「とても迷惑だよなあ。」

柚月葉。
「否定してはいるものの。」
「証拠を偽造されては。」
「皆さんも微妙な所。」

理世。
「いまのところは市民も悪くは思ってはいない。」
「でもいつかは。」
「強制的に仲間ということにされて。」
「おまけにあいつら。」
「けっこう慕ってくるのだ。」

柚月葉。
「頼みの綱に乏しいので。」
「媚でも売っているのだろう。」
「なんとか誘い出して。」
「仲間では無いことを証明しないとね。」

理世。
「武器の支度をしているらしいし。」
「なにをしてくるか分からない相手だ。」
「直接的な接触を避けているのは。」
「反逆者であると仕立てあげたいのと。」
「有力な人物を欲しがっているからか。」

柚月葉。
「放置すれば仲間ということになってしまうから。」
「必死に探しているところ。」

理世。
「まさか担がれてしまうとは。」

金塊が定期的に届くので。

本当に仲間であると思われ始めています。

自宅。

水琴。
「これは悪賢い姦計。」
「まずは市民に漏らしてしまおう。」

水琴ちゃん。

知り合いという知り合いに。

手紙の内容を徹底的に漏えい。

無理矢理にでも仲間に仕立て上げられ。

担がれている。

市民はそれを知ったので。

政府機関から法王様に伝わって。

柚月葉さんとお姉さんは事情聴取。

姦計であると判明すると。

法王様からは全面的に無罪であると言われ。

送られてきた手紙を残らず収集。

反逆者の企みは看破されました。

理世。
「妹ちゃん!中々やるじゃない!」
「面倒事があっさり消えて良かったわあ。」

水琴。
「何か確信があったからです。」
「火の粉は振り払えましたね。」

理世。
「金塊はすべて国庫に渡しておいたから。」
「もう疑われる事は決してない。」
「援護ありがとー!」
「今日は一緒に寝る?」

水琴。
「それは5年ぶりですね。」

その日の夜は。

姉妹で就寝。

お姉さんのいい匂い。

擦り寄って。

お姉さんは綺麗ですね。

先に夢の中に入ったお姉さんのほっぺに。

キスして。

私も夢の中。

後始末を残すのみ。

独立宣言を間近に控えた失われし王族。

実態は叛意に満ちた武力集団だったんですね。

この一件は。

水琴ちゃんが未然に防いだ形になりました。


8


叛意を剥き出しにした計画は。

敵の将校を暗殺したことによって。

出鼻をくじく事に成功。

反逆者はまだ準備が整っていないので。

事を急げない。

代行して辺境の民兵が挙兵。

叛意を具現化させております。

先ほどの功績が評価されて。

ネムス自治区にある金山。

最近。

採掘量が極端に低下していますので。

観光客を偽って。

現場を見てきてほしいと依頼され。

引き受けました。

水琴。
「山岳地帯にまとまっていたり。」
「点在する地域なのか。」

作業員。
「君は誰?」
「なにしに?」

水琴。
「社会科見学です。」
「先生から自由課題を出されて。」
「このレポートにまとめないといけないのです。」

作業員。
「ん?見せて。」
「なるほどー。」
「向上心あるねぇ。」
「おいで。」
「中を見せてあげる。」

水琴。
「ありがとうございます。」

最新型の採掘機。

渓谷沿いに築かれた金山のひとつ。

パワードスーツの腕部だけを取り付けたような。

電動のピッケルなんかもありましたね。

水琴。
「いっぱい金が取れるなんて。」
「いい場所です。」

作業員。
「これでも少ないほうだぞ?」
「最近は顧客が増えて。」
「掘っても掘ってもすぐ無くなる。」

水琴。
「国庫に入れる必要もありますからね。」

作業員。
「そうなんだよなー。」
「でもトラブルがあって。」
「採掘した金の半分くらいは失っているんだ。」

水琴。
「トラブル?」

作業員。
「輸送中に狙われるってわけ。」
「おまけにお偉いさん達の揉め事があって。」
「おっとこの事は言い触らしちゃだめだよ。」
「おじさんも迷惑していてね。」

水琴。
「確かに言い触らすと。」
「大事になりますし。」

作業員。
「お偉いさん同士がこれまた激しくやっていてね。」
「労働環境も改善して欲しいくらい。」
「愚痴も出るよ。」
「従業員のひとりではろくに物を言えない。」

水琴。
「それでせめての抵抗に?」

作業員。
「察しがいいな。」
「訪れる学生全員に言っているが。」
「まあこの辺にしないと発覚しそうだし。」
「君で最後になるかな。」

水琴。
「あはは・・・。」
「苦労してますね。」

作業員。
「まったく骨折り損のくたびれ儲け。」

いっぱい見せてもらって。

地下の階層ごとに綺麗な整備。

機械の通る道も。

階段も。

大型の採掘場だけに。

手の込んだ金山であると。

レポートに書いて。

あの女の子は大学生?と誰かは言った。

作業員。
「そろそろ休憩が終わるから。」
「申し訳ないが。」

水琴。
「はい。」
「お時間をありがとう。」

金山から立ち去りました。

運転士さんは。

何者かが山の上から監視しているらしくて。

尋常では無い雰囲気であるとこぼしました。

この後。

揉め事があるという証言をベースに。

調査団が入り。

金山を取り仕切っていた役人は全員交代させられて。

その役人達が国外逃亡しまして。

反逆者との関与が疑われました。

水琴ちゃんは不意打ちとして送り込まれたので。

密かに。

金貨を頂けまして。

褒められちゃいました。

制服さんの信頼を獲得。

そこそこ名の知れた女の子になれて良かった。

理世。
「妹ちゃんお手柄ですなあ。」

水琴。
「こういうのには慣れてきました。」

理世。
「もうこの娘は大好き!」
「もう立派な大人なんだねー。」

水琴。
「小さい頃から見てますから。」
「気付きませんでした?」

理世。
「そんなことないよー。」
「そろそろ本領発揮すると思っていたけれど。」
「遂にその時が!」
「なんか男性の視線も熱いし。」
「また姉妹でお散歩しよう。」

水琴。
「ゴールデンシスターとか言っている人もいますし。」
「次はお姉さんの番になりますよ。」

理世。
「いいや。」
「妹ちゃん無双が続くと思うね。」

水琴。
「いやあ謙遜を。」

理世。
「それは必然になるのだー。」

抱き締められた水琴ちゃん。

両親も笑顔が増えて。

パイロットの任務も。

鼻歌まで飛び出す。

娘が自立していく姿は。

自分の予測が愚かなものであったと。

吹っ切れた態度であったかのように。

私としても貴重な体験で。

演技のスキルが活かせた成果でした。


9


ルシオラという少女がおります。

早死にした父親の唯一の後継者として。

ネムス自治区を統治する領主となり。

まだ15歳にも関わらず。

政務を執り行う。

貴族ですね。

毎日のように宴会を行っており。

招かれました。

ルシオラ。
「はじめまして。」
「ルシオラと申します。」
「礼儀もある意味平和な暴力と成り得ます。」
「簡易的かつ形式的な挨拶でよろしいですよ。」

水琴。
「みことです。」
「前々から興味を持っていました。」
「ほぼ同い年ですし。」
「好印象がありますから。」

ルシオラ。
「友好的な人は是非とも歓迎します。」
「そのようなお人には忠義を尽くしますよ。」
「さあどうぞ。」

セルウィー。
「お嬢様。」
「ウィーヌムが足りていないようです。」

ルシオラ。
「いくらなんでもそのようなお高いお酒を。」
「湯水のように使うのは納得できませんが。」

セルウィー。
「お金持ちはお金を使ってこそ楽しめるものですぞ。」

ルシオラ。
「はあ・・・。」

柚月葉が到着。

柚月葉。
「なんだね?この宴会は?毎日やっているようだが。」

セルウィー。
「お嬢様のご意向です。」
「先代の方は遺言に。」
「少女のうちは盛大にと。」
「華を持たせるのがわたくしどもの義務です。」

柚月葉。
「ああ分かった。」
「そういうことにしておくよ。」

領主の部屋。

ルシオラ。
「一度でもいいから。」
「領民の生活を目の前で観察したい。」

水琴。
「出してくれないのですか?」

ルシオラ。
「領民たちは私をアイドルと思ってくれている。」
「家臣団は私を持ち上げる。」
「みんな私に華を持たせて。」
「段々と大人にしていく。」
「そんな所なのでしょう。」
「少し気に入らないのですが。」

水琴。
「私も良くは思いませんが。」
「長期的に見てくれているのだと思います。」

ルシオラ。
「長い目で見てくれた結果であるならば。」
「いまはそれに甘えるしかありません。」

柚月葉がやってくる。

柚月葉。
「家臣団は先代の方の意思を体現しているとのこと。」
「やり方が違うから。」
「私は何とも言えないが。」

ルシオラ。
「毎日が宴会で。」
「贅沢三昧ですから。」
「財政も分かりませんし。」
「お父様の遺言を実行しているとは思います。」

柚月葉。
「やり方は人によって違うから。」
「私としては疑問ではあるが。」

ルシオラ。
「私も正直疑問です。」
「しかし私自身の権限は強くはありません。」
「お父様の旧臣たちの影響力の方が強いのですから。」

柚月葉。
「領民の理解が得られればいいのだが。」
「私は心配する。」

ルシオラ。
「ありがとう。」
「気遣ってくれて。」

水琴。
「来週も宴会を?」

ルシオラ。
「セレブ的な体験を積ませたいのだと思います。」
「ノウハウが必要なんだと。」

水琴。
「そうであるならば。」
「納得が行きますね。」
「今日は招待ありがとう。」
「適当な所で去りましょう。」

その場にいた人は全員立ち去り。

今回のパーティーも終了するため。

フィナーレが執り行われる。

ルシオラが整えて締めくくるべく。

ホールに移動する。

ルシオラ。
「これは間違ってはいませんよね?」
「ああ神よ。」
「不気味な空気はどこから出てくるの?」

高台からお嬢様の形式文。

一同拍手。

ルシオラちゃんのセレブ生活は当分続きそうです。


10


周辺で。

スケバンという女子大生のグループが。

試合を吹っかけて。

賭け金を獲得する。

荒らし行為をしておりました。

勝負師の集団なのですが。

フェーミナちゃんが絡まれて。

観客と一緒に芝生広場に居るのです。

スケバン。
「戦士だな。」
「それとも匹夫の勇かな?」

フェーミナ。
「面白いじゃない。」
「たまには勝負事もいいんじゃないかって。」

スケバン。
「賭け金が少額だが。」
「臆病者ではないな。」

フェーミナ。
「あなたこそ。」
「いまのうちに降伏したらどう?」

スケバン。
「ほほう?」
「活きがいいね。」
「今日の獲物はこの娘だな。」

フェーミナ。
「所で?いいの?」

スケバン。
「はあ?何が?」

フェーミナ。
「ひとりでいいの?」
「ふたりで来なさいよ。」

スケバン。
「そうなると。」
「賞金はあっさりあたしのもんだよ?」

フェーミナ。
「そこは遠慮せずに。」

スケバン。
「だってよ。」

ファンシー。
「余程無謀なのか。」
「そう言えばあの女の子。」
「どこかで見たような。」

スケバン。
「少し試してみるか。」
「ふたりでいいんだな?」
「無残な姿を晒すなよ。」

競技ペイントボール。

腰のベルトに10個装備された。

小さなペイントボールを投げ合い。

どこかに当たって。

着色料がある程度付着したら。

勝敗が決します。

試合開始。

フェーミナはすぐに距離を取って。

相手を一直線の動きに誘導。

スケバン。
「気をつけろ!動きが速い!」

ファンシー。
「立ち回りがいいな。」

開始早々。

ペイント弾を投げられるものの。

動きを読んでいて。

全く当てられないスケバン。

逆に。

フェーミナのボールがファンシーに当たってしまう。

ファンシー。
「なにっ!?」

フェーミナ。
「動きが遅いよ。」

スケバン。
「ちっ!相手はこっちの動きを読んでいるのか。」

横方向移動をするフェーミナ相手に。

立ち回れないスケバン。

フェーミナのボールをひょいっと避ける強敵スケバン。

常に動いているフェーミナに苦戦。

お互いに夢中になって。

気付いた時にはベルトにあるボールがありません。

フェーミナ。
「あっ!しまった!」

スケバン。
「貰った!」

ボールを投げようと。

空気を掴んで投げた。

フェーミナ。
「はれっ?」

スケバン。
「うわ!いけない!うっかりしていた。」

ファンシー。
「なにやってんだ!」
「引き分けかいな。」

フェーミナ。
「もう一回やる?」

スケバン。
「あんたの実力は見せてもらった。」
「もう仕掛ける気は失せたよ。」
「でも覚えておけ。」
「まぐれは続かないぞ?」

フェーミナ。
「強い奴が勝つのではなくてよ?」
「勝った奴が強いのよ?」
「まぐれだと思わないことね。」

スケバン。
「たまにいるんだよ。」
「ああいう強いのが。」

ファンシー。
「油断した。」
「戦いをみくびった。」

フェーミナ。
「張り子の虎ね?」

スケバン。
「予想以上に出来る女だよ。」
「ほら。」
「これでジュースでも買いな。」

フェーミナ。
「あら?ありがとう。」

祈。
「ほわー。」
「試合ですか。」
「勝負事ですか。」
「戦う女の子萌えですねー。」

フェーミナ。
「結果論としては美しい戦いだったわ。」
「惚れた?」

祈。
「好きですとも。」
「キスとかは全然オーケーですよ。」

フェーミナ。
「そっちですか。」
「あなたが望むのなら。」
「遊んであげてもいいけれど。」

祈。
「え?ほんと?」

フェーミナ。
「あなたをどうしてあげようかな?」

祈。
「いやー!弄ろうとしないでください!」
「美術的興味の対象ですから!」

フェーミナ。
「そんなに私綺麗?」

祈。
「綺麗ですとも。」
「それはあなたが思っている以上に。」

フェーミナ。
「諂って何を企んでいる?」

祈。
「ああ分かっちゃいました?」
「実はやってみたいことがあるんです。」

フェーミナ。
「私でやってみたいこと!?」

祈。
「あっ!はい。」
「アイドルの衣装を着てもらって。」
「衣装毎で絵画にしたいんです。」
「水着なんかも趣味としては抜群で。」

フェーミナ。
「あら?そんなのでいいの?」
「誤解してたわ。」
「あなたのことだから。」
「一緒に花火で自爆しようとか。」
「そういえばあなたって。」
「自分の裸を鏡で見ているはずよ。」

祈。
「そ・・そんな過激な事はしないのです!」
「自爆って何ですか!」
「私が不良だとでも!?」

フェーミナ。
「自分の事そう思っていたの?」
「かわいそうな女性がここにー!!」

祈。
「うわん。」
「そんなこと言わないでー!!」

水琴。
「あらあら次は追いかけっこ。」

祈。
「俺色に染まれー!」

フェーミナ。
「筆で塗りつけるなー!」

筆を持って追いかけるいのりちゃん。

さりげなく足が速いフェーミナちゃん。

フェーミナ。
「こっちだぞー。」

祈。
「うー!スポーツ女子めー。」

理世。
「通りすがりのお姉さんも参加だぞー。」

フェーミナ。
「うわっ!捕まった!離せー!」

祈。
「そこだああぁぁ!!」

フェーミナ。
「まだまだー!」

ドタバタが始まってしまって。

貰った小銭が自動販売機に収まるのは。

祈ちゃんから逃れた後になったとさ。

水琴。
「スケバンをやっつけるほどの勇気があるのかあ。」

理世。
「友達が予想以上の手練で。」
「出遅れたか?」

水琴。
「いいえ。」
「ちょっと嬉しくて。」
「友達の活躍だもん。」
「力量が釣り合っていれば。」
「切磋琢磨!」

フェーミナ。
「わたしもそう思っているわよ?」

水琴。
「わあ!いつの間に?」

フェーミナ。
「お互いに頑張りましょう。」
「また明日。」

水琴。
「今日はかっこよかったよ。」

フェーミナ。
「ありがとー。」

駆け抜けていくフェーミナ。

祈ちゃんがまだ狙っていて。

どうしても追いかけたいらしくて。

倒れるまで走ってましたね。

追いかける事に意味があるらしいです。

ユーモアラスな人達が私の景色に。

人生観について語る正統な文献はありません。

人生という単語に囚われずに。

運命が私に与えてくれた道筋を。

歩き通すとします。


11


ルシオラちゃん。

宴会も段々とグタグダに。

人を選ばず招待しては。

集会と化してしまっています。

ルシオラ。
「あのー。」
「もう充分なんだと思います。」

セルウィー。
「確かに注意勧告が届いておりますし。」
「実は遺言書に育成計画がありまして。」
「これが最終段階なのです。」
「もう少しお付き合いください。」

ルシオラ。
「そうでしたか。」
「私も拝見致しまして。」
「思った以上に数を書いていらして。」
「お父様も私の事を想っていらして。」
「気持ちには答えましょう。」
「これも受け継ぐ儀礼の一種として。」

祈。
「いやあ豪勢ですなあ。」
「食べるものには困らない。」

フェーミナ。
「パンが無いならケーキを食べればいいじゃない。」

祈。
「そうなんですよー。」
「主食のパンが見当たらないんです。」
「ケーキが主食だなんて道化師顔負け。」

フェーミナ。
「小麦粉も無い金持ち?」
「ぶっ!」

祈。
「お菓子を主食にするなんて。」
「貧乏人の発想なのでは?」
「傑作じゃないですか。」

理世。
「そんなに言ってやるなよ。」
「最近いろんな話が流れていて。」
「贅沢三昧は終わりごろ。」
「こういう経験をさせるのが先代の育成計画だったとかね。」

水琴。
「子供の頃に良いものを受けさせて。」
「悪いものは大人になってから見せると。」
「そんな噂を聞きました。」

祈。
「まあそのほうがいいんじゃない?」
「子供はロマン主義が似合っている。」

フェーミナ。
「子供のうちから見せたほうが良い場合もあるでしょうけれど。」
「人というもの。」
「誰かからの影響を受けずには居られない。」

水琴。
「裕福だったシュバイツァーさんも。」
「友達と試合をして。」
「勝ったのはいいのですが。」
「食事が貧しかったから負けたと言われて。」
「それで自分の事を知ったと伝えられています。」

フェーミナ。
「アフリカの惨状には目を覆うわ。」
「医療が根付いていない地域ですから。」
「その土地特有の風土病が酷いし。」

祈。
「近くに川が少ないようで。」
「人が住めるような雰囲気ではありませんしねぇ。」
「私も福祉に興味が湧いた。」

フェーミナ。
「お金持ちっていいなー。」
「なんて人は大勢いますがー。」
「貧乏人は気軽なんですけどねー。」

水琴。
「一文無しの旅人は、道中で追いはぎを相手に、歌のひとつも歌えよう。」
「貧乏なればこその気軽さを忘れてはいけない。」

祈。
「愚かな金持ち。」
「お金は物を言いますよ。」
「いつどこだって。」
「私に華やかなドレスや装飾品は似合わない。」

フェーミナ。
「私達も大金持ちになった場合。」
「お金に溺れる運命が待ち構えている。」
「貧乏くじを引かないだけ良かったと思っている。」

祈。
「私も大富豪になった場合。」
「自分が贅沢に溺れる事を知っています。」
「ああいう方達にあのような立場が回ってくるべきなのです。」

祈。
「賛成。」

フェーミナ。
「ある意味では相応しい人が金持ちになるのよ。」

理世。
「せっかくの食事がまずくなるぞ。」

フェーミナ。
「社会勉強の教材。」

理世。
「真面目だなー。」
「へらへらする意思はないと?」

フェーミナ。
「当然よ。」
「容姿だけではないってこと。」
「証明してやるんだから。」

祈。
「負け惜しみに聞こえました?」
「損得勘定で世界を測った途端に罠の中。」
「得か損かで判断するならば。」
「金銭だけがこの世界であって。」
「金銭だけを求めるだけが人なのですから。」
「損得勘定というのは罠ですし。」

フェーミナ。
「精神的豊かさってどうすれば得られるのか。」
「お勉強に来たの。」

理世。
「いいえ。」
「むしろ私達が試されている側であると認識しているぞ。」

祈。
「誰でも黄金が目の前に出てくれば。」
「欲しいに決まっています。」
「ただ。」
「物的豊かさに重点を置く生き方が。」
「真理なのか疑問なだけさー。」

理世。
「今回は貴族のパーティーだから。」
「何故にそのような考察を?」

祈。
「財産がどんな心境に陥るかを知りたいので。」

フェーミナ。
「大金持ちという宝くじを当てた張本人から学びたいので。」

水琴。
「価値判断について考察したいから。」
「こうして語り合っているのです。」

理世。
「そうした態度や行動は。」
「尊いものだと思うぞ。」

祈。
「私は尊いものが好きなので。」
「まずはお金持ちからヒントを得るためにいるんだ。」

フェーミナ。
「そのついでに。」
「このお高いジュースを貰っておきましょう。」

ルシオラ。
「グダグダです。」
「あと何回やるんですか?」

セルウィー。
「お次は旅をして終了しましょう。」
「この世界を見て回るのもお勤めのひとつ。」

ルシオラ。
「はあ・・・一理ありますが。」

屋敷の外には。

快く思わない見物者が何人も来ていて。

領民も疑問視しておりますし。

枯渇した財源を回復するために。

自治区の税金が二倍になってしまい。

反感を買っています。

それも。

すぐに終わりますよと。

理解は得られていますが。

領民の不信感は拭えません。


12


領内で噂になってしまい。

わざと宴会をしているなど。

良くない話でもちきりで。

ルシオラの信頼は失墜。

とうとう理解が得られなくなり。

抗議文が送られてくる始末。

ルシオラ。
「これに対して何の言い訳をするつもり?」

セルウィー。
「埋蔵金をご存知ですか?」
「まだ貯蓄はありますが。」
「思った以上に費用が必要で。」
「一時的に領民から頂いております。」

ルシオラ。
「もうお辞めなさい。」

セルウィー。
「それは先代の名誉に関わります。」

ルシオラ。
「私達の市民は運命共同体だったのに。」
「いまでは奴隷のように搾取する側よ。」
「領民の理解が得られない以上。」
「かえってお父様の歴史に汚点を残します。」

セルウィー。
「わかりました・・・。」

宴会は終了しましたが。

今度は旅行をしようとする計画が漏れてしまい。

領民は反対。

抗議。

屋敷に押しかける領民。

真意を訪ねようと代表者が名乗り出ます。

ルシオラ。
「どういうこと?」
「私は外の様子は知らなかった。」

セルウィー。
「さすがに度が過ぎましたな。」
「お嬢様。」

ルシオラ。
「なにが!?」

セルウィー。
「申し訳ありません。」
「領民の方々。」
「お嬢様の道楽が過ぎまして。」
「只今なんとか説得しております。」

リーダー。
「あのお嬢様が本当にわざとやっているのですか?」

セルウィー。
「なにゆえ成熟には程遠く。」
「我々もなんとか説得に成功しましたので。」
「今後とも諌めるのみです。」

リーダー。
「なんだと!」
「わたしたちは失望したぞ。」
「大人しくて聡明な方であると思っていた。」
「もう我慢ならないぞ。」

ルシオラ。
「そんなことはありません!!」

セルウィー。
「どう説明するのです?」
「あなたが命令するがままに動いた。」
「我々の身にもなってください!!」

ルシオラ。
「そんなこと・・・。」
「私は最善を尽くしていたはず・・・。」
「お前は・・・。」

剣を抜いてセルウィーを脅迫する。

セルウィー。
「なんてことを!」
「あなたに忠実なるしもべだったのに。」
「ここで命を落とすとは無念でございます・・・・。」

ルシオラ。
「うっ・・・。」

兵士が取り囲む。

リーダー。
「お嬢様!そんなことするなんて酷いぞ!」

柚月葉。
「話は聞かせてもらった。」

乗馬する柚月葉が駆けつける。

リーダー。
「ファーブラー公の娘さんです!」
「敬礼!」

柚月葉。
「率直に言うが。」
「話がうますぎるのではないか?」

リーダー。
「そう言いますと?」

柚月葉。
「いくら少女でも。」
「飽きるほどの長い期間。」
「宴など開かないのではないか。」

リーダー。
「ん?それはどういうことで?」

柚月葉。
「ルシオラ嬢と直接会話して確かめた。」
「遺言書の通りに育成計画があると。」
「しかし宴などという記述はない。」

リーダー。
「それは知っております。」
「わざと子供らしくやったと。」

柚月葉。
「お前たちは何も疑問を抱かないのか?」
「ろくに事実確認もせずに。」
「犯人として扱っていいのか?」

リーダー。
「ああなんて正論を。」

ルシオラ。
「もはやこれまで。」

ルシオラは天に向かって神に懺悔。

自害しようと試みたが。

水琴が潜んでいて。

剣を奪って捨てた。

これによって風向きが一気に変わった。

リーダー。
「なにかおかしいぞ。」

セルウィー。
「お嬢様!もう打ち明けて楽になりましょう!」

リーダー。
「話が早かったな。」
「確かに事実確認をろくにしていなかった。」
「噂だけで物事を決定した我々にも非がある。」

柚月葉。
「この場は引き下がってくれないか。」

リーダー。
「もちろん。」
「ただし大臣と家臣団の身柄を引き渡して貰いたい。」
「そいつらの演技であると不信感が拭えない。」

柚月葉。
「兵員三百を外に待機させてある。」
「ルシオラ嬢はとりあいず保護するぞ。」

リーダー。
「了解した。」
「我々は大臣たちに用がある。」

セルウィー。
「あんまりです!」
「すぐに兵士を集めろ。」
「脱出するぞ。」

ルシオラは気絶。

警備兵と市民とで戦争が発生。

柚月葉とルシオラは脱出。

水琴も援護しつつ離脱。

事件発生。


13


夜中。

市民と戦う大臣たちと。

保護されて。

テントで目を覚ますルシオラ。

柚月葉。
「死んではいない。」
「怪我はないか?」

ルシオラ。
「大丈夫です。」
「歩けます。」

水琴。
「わたし役に立ちましたね。」
「平凡な女の子を演じて。」
「立ち回った甲斐がありました。」

ルシオラ。
「あなたが?」

柚月葉。
「状況証拠だけでも掴んだ勇敢な女の子だよ。」

水琴。
「あれを覆すのは充分でした。」
「いまは休んで。」

ルシオラ。
「いまどうなっているの?」

柚月葉。
「法王様の一個師団が向かっている。」
「それまで近くの駐屯兵士と市民とで戦闘。」
「諸侯の手勢も少なくて。」
「いまのところは劣勢だよ。」

ルシオラ。
「領民の血が流れて・・・。」

水琴。
「到着なんてすぐですよ。」
「先遣隊は既に市街地に居ますし。」

ルシオラ。
「良かった・・・。」

柚月葉。
「ここの陣地は三百の兵士しか居ないが。」
「精鋭揃い。」
「戦車だっているから。」
「一般歩兵が大半のセルウィーには負けないよ。」

パワードスーツ部隊が遊んでおりました。

重火器を持って。

準備万端。

丘の上からに見下ろすに。

空挺部隊が素早く現地入りして。

市民は避難しているようで。

双眼鏡の偵察兵が報告。

ルシオラは眠りに落ちた。

朝になれば。

戦闘の大半は終了しており。

首謀者のセルウィー以下数名を捕獲。

宮殿に戻ることができました。

士官が歓迎。

ルシオラ。
「私は・・・操り人形にされていた・・・。」
「利用されて・・・。」

水琴。
「不可抗力。」
「でもすぐに終わりますよ。」

水琴の笑顔に勇気が出たルシオラ。

市民大勢の前に出た。

そこには捕獲されたセルウィーがおり。

黙り込んでいる。

ルシオラは剣を抜くと。

セルウィーの首をはねた。

歓声が沸き起こり。

法王軍将校たちも満足。

この事件は歴史に刻まれることになる。

その後。

すぐに善政へと向かい。

領民の忠誠心も回復。

先代の時代のような明るい雰囲気が満ち溢れて。

新しい領主であるルシオラの名誉も回復。

ルシオラ自身も歌姫として世界大会に出たほどで。

コンサートが開かれた。

再び領民のアイドルになった少女の自治区は。

再び平和の時代を迎える。

家臣をすべて入れ替えた新世代。

新政権。

20日経過。

ルシオラ。
「この恩は石に刻みます。」

柚月葉。
「そうしてください。」
「義の奴隷としての義務を果たせました。」

水琴。
「わたしも貢献できたし。」
「役に立つ女の子なんて。」
「自分の実績になりました!」

理世。
「妹ちゃんの功績を祝うぞー。」

ルシオラ。
「うふふ。」
「また遊びに来てくださいね。」

世界のニュースで注目されるなど。

意外な形の謀反でした。

水琴は現場に居たのですから。

褒美として。

なんと。

宝剣グラディウスが贈られてきました。

聖職者が祈った剣だそうで。

長さが十拳剣と同じ。

庭で木片に試し切りをした所。

不思議と剣が適切な斬り方をする。

扱いやすいものでした。

水琴。
「剣が私に合わせてくれる?」
「すごい。」
「思ったように扱える。」

柚月葉さんも自分を証明できまして。

父上であるファーブラー公に。

褒め称えられて。

勲章まで貰って。

私も宝剣がいま手にあり。

私は通用すると実感。

女性は生まれたままでは女性ではありません。

性別としての女性と。

存在としての女性と。

ふたつあると知りました。

女性にして。

女性になろうと。

神に祈りを捧げた。

私の青春の出来事です。


14


自宅の花壇。

家庭菜園と木々と小川がある場所。

水琴とフェーミナの共同観測。

冬に時々ですが。

スズメやキジバト用の食物。

庭に設置するんですよ。

5日に1回なんですが。

二等米が余ってしまう時期があって。

野鳥にあげているのです。

遠くからミニ双眼鏡。

水琴。
「自然体の仕草がなんとも言えない。」

フェーミナ。
「慣れているカワラバトはともかく。」
「心を許さないのが鳥類。」
「捕まってしまったら。」
「なにされるか分からないから。」
「人慣れしているドバトは人がなんであるか分かっているから。」
「掴めたりするけれど。」

水琴。
「念の為に一定の距離は必要なんですよ。」
「人に対しても警戒を怠ることなかれ。」

フェーミナ。
「動物は条理を知っているのだから。」

水琴。
「スズメやハムスター。」
「カラスから学ぶこともありますし。」

フェーミナ。
「カラスの中には猫を叩きのめす個体もいるよね。」

水琴。
「猫もヘビを一方的に虐める個体がいますよー。」

フェーミナ。
「あの超自然的な戦闘能力は参考になるし。」

水琴。
「ライオンとかクマの戦い方って真似すると強いですよ。」
「ライオンのように勇敢に。」
「クマのように獰猛であれ。」

フェーミナ。
「人の体は人間に対してだけ有効な攻撃が可能であって。」
「牛などの家畜を武器なしで攻撃すると。」
「満足なダメージは入らない。」
「ただし。」
「武器を使えばいかなる野生動物も凌駕する。」

水琴。
「人は力を失えば。」
「猿と本気で喧嘩して負けますから。」
「ライオンのような強さは常に必要です。」

フェーミナ。
「だけれど。」
「獣ではないから。」
「人は被造物だから。」
「そこら辺は気を付けないとね。」

水琴。
「そうですよー。」
「一時期生き物が分からなくなって。」

フェーミナ。
「命命言う奴ほど命が分かってない。」
「それは容易に失われて。」
「厳重に守られるもの。」

水琴。
「死が先ですから。」
「生は後。」

フェーミナ。
「生きようとすれば死ぬもの。」
「死ぬまいとすれば生き残る。」

水琴。
「死を知るべき。」
「次に生。」

フェーミナ。
「自分が神だと信じて。」
「埋葬された人間共が滑稽な。」

水琴。
「それは仕様です。」

フェーミナ。
「しょうがないし。」
「あら?思ったよりたくさん集まってきたわね。」

水琴。
「団体さんのお出ましですね。」

ハトの大群。

自然体に動き回り。

カワラバトは近くのパンクズに来てくれて。

目の前で観察できましたよ。

これが生き物なんだと悟りました。

水琴。
「自然は雄弁なり。」
「自然は真実なり。」
「小鳥もカラスも鹿も猪も。」
「ライオンや鷹も。」
「昆虫や蝶々も。」
「自然は雄弁。」
「真実を語る。」

フェーミナ。
「敬虔なる者よ。」
「損得勘定を避けるべし。」
「神はその結果をお見通しよ。」

水琴。
「兵士がライトマシンガンを放ち。」
「戦車や戦闘機が交戦し。」
「相手を撃破しても。」
「被弾してやられてしまっても。」
「こっちの方が雄弁ですし。」

フェーミナ。
「兵士が死亡するのも。」
「戦争の勝利者とその後も雄弁だし。」
「勝者故の混迷も真実になるわね。」
「見たままが真実になるわ。」

水琴。
「ただし。」
「あらゆる嘘を取り除き。」
「愚か者同士の詭弁を逃れた後に。」
「初めて見えるものだから。」

フェーミナ。
「愚か者たちはお互いに。」
「詭弁によって庇い合い。」
「弱弱しく生きている。」
「惨めな生き物で。」
「けっこう厄介よ。」

水琴。
「自然淘汰の対象者であり。」
「変化に対応する者が生き残る。」
「強い者が生き残るのではないし。」
「両立している者は。」
「自然淘汰に手を貸します。」

フェーミナ。
「たとえ天体や小惑星が落ちるとも。」
「自然災害。」
「飢餓渇水。」
「発生したほうがむしろ雄弁よ。」

水琴。
「人の詭弁の罠に落ちることなかれ。」
「自然の道理はそれを示す。」
「病気を持って慌てない。」
「コンボが決まれば解けないし。」
「冬は籠もって過ごすべし。」

フェーミナ。
「人の生さえ星の巡り。」
「安定などはありません。」

水琴。
「自然が私に教えてくれたものは。」
「すべて最初からあって。」
「その上に人がいろんなものを。」
「建設したという点。」

フェーミナ。
「確かにオリジナリティの追及は。」
「芸術としては正しいわよ。」

水琴。
「最初にあるものをすべて無視して。」
「制度や法律。」
「規則から。」
「そうあるべきという答えや正解。」
「そんなものを設定すべきではないという事物で。」
「どっちかと言えば。」
「はじめからあるものに。」
「人はなぞっているだけで。」
「ちょうど銀河の中心が最初からあるように。」
「後から人が手を加えているに過ぎず。」
「こうした真理から目をそらすのは。」
「賢明さから遠ざかるばかりで。」
「人間なんてこれっぽっちも誇れないし偉くはない。」

フェーミナ。
「オリジナルティは評価されるわよ。」

水琴。
「私が言いたいのは。」

「力づくで真実を曲げたら。」
「代償は高くつく。」
「というものです。」

フェーミナ。
「そんな馬鹿いるわけないじゃない。」
「杞憂よ。」


水琴。
「そこで冗談なんてどうでしょう?」
「ある中年男性は叫んだ。」
「人生とはこうだ!」
「文章にした。」
「学者に見せた。」
「しかし論文にしては駄作である。


フェーミナ。
「色事のほとんどは度数の強いお酒と一緒で。」
「酔う事に意味があるのです。」

水琴。
「他人を無能なんて言わない。」
「からっぽでも頭はある。」
「だから。」
「何も取り柄がないなんて言わないこと。」

フェーミナ。
「悪口を言ったというより。」
「愚痴を話す相手に恵まれたのよ。」

水琴。
「相手を悪者にしないと。」
「自分が悪者にされてしまうから。」
「悪口を言わなければならない。」

フェーミナ。
「なぜ我を張る?と質問されて。」
「こう答える筈よ。」
「私とは物差しである。」
「私という物差しでいろんな物を測ってください。」

水琴。
「妙に歴史を嫌う無学な人がいて。」
「歴史を駄作だなんて持論を披露した。」
「その人達が作る歴史は最悪の出来になるでしょう。」
「なにせむかしのように。」
「名作家は居ないから。」

フェーミナ。
「やだ。」
「そんなふうに言ってみると。」
「人間なんて随分滑稽な生き物じゃない。」

水琴。
「おおよそ。」
「芸術家の描いた失敗作のような人間が俳諧していたり。」
「生活していたりすると。」
「芸術家に失敗作の責任があるように思える。」
「頼むから失敗作は今後とも出さないで下さい。」
「失敗作はきちんと片づけてから次を作ってくださいと。」
「天に向かって嘆願している途中なんです。」

フェーミナ。
ちょっと!笑いが止まらないわ。」
「これ以上は辞めましょ。」
「ギリシアの古喜劇を再現しているかのようだわ。」

小雨。

庭に出たら。

いきなり距離を取って渡されて。

水風船。

フェーミナ。
「あんたとの決着。」
「まだついてないわ。」

水琴。
「五分五分だよねー。」

フェーミナちゃん。

手をかかってこいのポーズ。

水琴ちゃんはグッド!のハンドシグナル。

水風船を投げ合って遊びました。

水琴。
「どこ狙ってるんですか。」

フェーミナ。
「独特のステップで動き回らないでください。」

中々当たらないので。

フェーミナちゃんも距離を取ってフェイントを多用。

この遊び。

命中する事自体がハプニングで。

けっこう楽しかったり。

フェーミナ。
「弾速が遅いわ。」

水琴。
「エアガンで撃ちあったほうが面白いかも?」

フェーミナ。
「それだと地味になるし。」
「先制発見・先制攻撃が物を言うから。」
「派手な勝負が好きよ。」

事前のモーションで見切られて。

投げた水風船をキャッチされちゃった。

フェーミナ。
「力は正義なりー。」

水琴。
「この弾速だと当たりませんねー。」

フェーミナ。
「接近すると猪武者。」

水琴。
「先読み攻撃。」

フェーミナ。
「そうはさせないわ。」

力を持つ女の子は敏捷性も高くて。

決着がつきませんでした。

両者弾切れの時は。

決めポーズで終わります。

フェーミナ。
「ぶいっ!」

水琴。
「キラっ!」

フェーミナ。
「結局力は正義だから。」
「力が無い人間は不義ってことだよね?」

水琴。
「そういう人は間違っているのです。」
「正しくないから力を持たない。」

フェーミナ。
「実行力で雲泥の差が出るわ。」
「いざという時に何か出来るって大切ね。」

水琴。
「一人で何もできない人間は愚かである。」

フェーミナ。
「愚者には理解できないのが正義よ?」

隠し持っていた水風船を投げてきて。

ひょいっと避けた水琴。

追いかけっことなりました。

川で水遊び。

抱きしめられて。

水琴ちゃんは笑顔。

ベンチでくっついて。

お互いにすり寄って。

川の流れと魚と蝶々と。

小雨を満喫。

フェーミナ。
「石川は雨の日が辛いって。」

水琴。
「雨の日を楽しまないの?」
「青いなあ。」

フェーミナ。
「非凡な女の子が同世代にいて。」
「何に対しても遣り甲斐があるわ。」

水琴。
「むかしむかしは鳥なき里の蝙蝠。」
「いまは鷹なら困りません。」
「正義の結果です。」

フェーミナ。
「力は実行力。」
「実践と結果に行き着く。」
「力こそ正義。」
「あのプラトンが国家という書に記した真理。」

水琴。
「結局は。」
「力無き者は虐げられるしかないのです。」
「人の道に外れているから。」

フェーミナ。
「正義の力は途方もない。」

水琴。
「人が力を得て。」
「より正しくなりました。」

現在は模索の最中。

自分たちで自らを探す時代。

水琴。
「人の行く末も水の流れのように一定の型は存在しない。」
「水の流れのように地形沿いを流れるのみ。」
「星の運行は人の運命に影響を与え。」
「時を知る者は永遠を与えられる。」
「大切な事は岩に刻み。」
「言葉は鳥のように羽ばたいていく。」
「行いは因果律に記憶され。」
「理法は万物を。」
「物事一切を支配する。」
「自然そのものが世界で。」
「世界は人の存在。」

人はなんて小さな存在なのだろう。

しかし自然の仲間になってしまうと。

少しずつ真実に近づいている。

自然の道理に背けば。

人という者は簡単に消し去られてしまう。

あまりの無力。

祈。
「飢餓ひとつで。」
「災害ひとつで。」
「自分を確信していた人間は。」
「打ち砕かれる。」
「その光景はゴミ清掃のよう。」
「こうして。」
「神のように振る舞い。」
「神になろうと信じていた人間は。」
「歴史の中に埋葬されて。」
「ありとあらゆる人類の愚行は埋葬されて。」

フェーミナ。
「風刺を書かずにいるのは難しいよね。」

祈。
「それだけ滑稽なんですよ。」

水琴。
「わあ。」
「風刺の題材になるような。」
「愚者の仲間にならないように。」
「他山の石。」

祈。
「人間の愚かさはどこでも書かれてますよー。」

フェーミナ。
「まあ自覚ないでしょう。」

祈。
「時は真実をもたらす。」
「いまでは名作喜劇ですし。」

水琴。
「それが客観的なんですよ。」

祈。
「うんそうだよ。」
「真実が示したのは客観的な見解。」

小雨が本格化したので。

傘を持って散歩してます。

水琴。
「皮肉を書いてやるー。」

祈。
「人を食ってる。」

フェーミナ。
「あらー?どういう意味かしら?」

おおよそ愚者達が埋葬されるこの遺跡に描いておきました。

我は汝であった、汝は我になるであろう。


15


石川兄弟という二人一組の執政官がこの地域を治めており。

人気がある温和な人物なのですが。

国有地を返還して公平に分配しようと試みています。

国有地は貴族や中間階級が独占しており。

高級品や嗜好品の生産に使用されておりまして。

所得の低い層に振り分けようとしたのです。

貴族から反感を買いました。

許可は必ずしも必要ありませんが。

無断で実行する態度が気に入らない上流階級。

石川兄弟を追放しました。

執務室から追い出される様子を目撃。

見物人がおりまして。

広場。

水琴。
「最初は良かったんですけれどね。」

理世。
「段々と人気取りに奔走していたような。」

石川兄弟が演説。

裁判で巻き返すそうです。

理世。
「いまでは迎合政治家じゃないか?」

柚月葉。
「石川兄弟が求めているものは何であるかは分からなかったが。」
「何であれ強烈に求めているということだけは分かった。」

将校のトリスティスが民衆に訴え。

石川兄弟を断罪。

石川兄弟は退くつもりはない。

トリスティスはレストランで柚月葉と会食した。

柚月葉。
「石川兄弟は。」
「反対一本槍でその先の計画性は無いんですね。」

トリスティス。
「任期満了間近で。」
「中々詭弁が上手なわけよ。」
「一部の民衆がやけに熱狂的で。」
「実質は厄介者。」

柚月葉。
「それで暗殺を?」

トリスティス。
「誰もが羨む出身の石川兄弟だからな。」
「追放のみならず。」
「殺してしまったほうがいい。」

柚月葉。
「あなたには戦いの準備をするように勧めることしか。」
「私にはできない。」
「あなたは特に。」
「平和の中で生きることが何よりも不得手なようであるから。」

トリスティス。
「知識人というのは現状洞察能力だけは優れている。」
「世の中のどこが間違っているかを現状批判させれば。」
「いくらでも話してくれる。」
「ただ。」
「その先の具体的な提案は進まない。」
「改革は説得や言論では成し得ない。」

暗殺が実行されるそうで。

私にも協力要請。

お姉さんが適当な理由をつけて。

おびき寄せて。

夜間の出来事。

理世。
「トリスティスが正面攻撃するから。」
「妹ちゃんは輸送機を奪って。」

水琴。
「できるよ。」
「私は弱くない。」

輸送機が停留場に着陸して。

弁護士を偽った男が案内し。

法廷に入っていきますが。

輸送機が離陸する前に。

剣を抜いて輸送機を制圧。

移動手段をまず奪っておきました。

数日後に。

石川兄弟は暗殺されましたよ。

後から調べられますと。

実質は。

市民からの嫌われ者で。

一部の狂信者が保っていた地位でした。

全体主義と大衆主義が信念。

市民だけを重視した迎合政治家というのが正体。

理世。
「結果さえ良ければ、手段は常に正当化される。」

水琴。
「武器なき予言者は滅びると言いますし。」

理世。
「天国に行く最も有効な方法は、地獄へ行く道を熟知すること。」

水琴。
「それに尽きますねー。」

何か察していた水琴ちゃん。

丘の上から。

とある方角へ向かって。

明後日の方向に向かって叫んだ。

水琴。
「私は、葦原の中つ国の国民、名は水琴という。」
「敵の元凶を殺そうとして果たせなかったが。」
「運命を甘受するのは良識人の特質でもある。」
「私達は、あなたへの終わりなき戦いを宣告する。」
「戦場でことを決するのではない。」
「私の後にはもうひとり、そのひとりも果たせなかったら別のひとりと。」
「戦いは我々とあなたの間でのみ続行されるのだ。」
「あなたも覚悟されるがよかろう。」
「私達は、あなたへの終わりなき戦いを宣告する。」

ある時から勧善懲悪の政治を敷いてきた石川兄弟。

市民はあんなの交代させてくれと嘆願するものの。

時期が遅れてしまい。

伝統や歴史を無視した改革は失敗するというもの。

迎合政治家は排除され。

元老院指定の清政さんが就任。

清政執政官。
「あなたが反対しても。」
「私は弾圧しない。」

トリスティス。
「身の安全を心配しながら生きていたのでは。」
「生きた気がしない。」


清政執政官。
「市民に再び宣言しよう。」

「寛容(クレメンティア)こそが我々の政治である。」

迎合だけの偽善者が退場して。

市民も納得です。


16


花畑を見下ろす丘の上。

祈ちゃんにお菓子をお裾分け。

水琴。
「進捗どうですか?」

祈。
「自分の作品が公共の物になればいいよ。」
「それが形になってきた。」

水琴。
「公共の物?」

祈。
「それが私の絵だから。」

水琴。
「哲学ですね。」

祈。
「理性的判断っす。」

水琴。
「じゃあこの辺りで。」

普通に売れる普通の画家さんなのですが。

20代であり。

将来有望な女性なんです。

幼少期に宗教画を完成させて。

なにやら片鱗を見せる女の子がいますよと。

街での有名人。

絵を描きつつ。

祈ちゃんは森の喫茶店に出向いた。

スポンサーであるケルサス公に会うため。

ケルサス公。
「私達が祈さんを支援するのは。」
「公共と文化発展のためである。」
「個人の野心の充足に手を貸すためではない。」

祈。
「ならば。」
「これまで成功してきたことも。」
「必要となれば変えなければならないということである。」
「私は、今がそのときであると考えている。」

ケルサス公。
「よろしい。」
「そう言うと思っていた。」
「美術館に飾る絵が一枚不足している。」

祈。
「そこは私が用意できます。」

ケルサス公。
「ほんと大人になったよ。」
「今後ともよろしく。」

祈。
「こちらこそ。」
「目的が一致していて嬉しい限り。」

スポンサーというより。

戦友なのでした。

水琴ちゃん。

家ではいつものトレーニング。

剣にすっかり慣れて。

鉄板にワンインチパンチを討ちこんで鍛錬。

水琴。
「錬度が上がれば才能をも超える。」

休憩しつつ。

本を読んでいますと。

祈ちゃんがやってきて。

屋上にて。

お姉さんとリバーシで対戦。

理世。
「人類は支配階級の存在しない政治形態は編み出せなかった。」
「犯人みたいなのを倒せば、平穏が戻る。」
「そして平穏が戻れば、すべてが解決する。」
「夢想家ですよ。」

祈。
「仮に支配階級が居ないとなれば。」
「異常に偏った平等ですが。」
「誰も責任を負わない無責任な社会になり。」
「無政府主義の典型ですな。」

理世。
「凡人の考えることなんてたかが知れてるし。」

祈。
「世界は一握りの英傑によって動いてきたしー。」
「これからもそうであると思ってるっす。」

自宅の屋根の上にスペースがありまして。

絵を描いて見せ合っておりました。

ニュースでは。

龍神を祀っていた神殿が爆発したそうで。

何ですかね?

くえー!!という咆哮。

上空に三体の竜が飛んでいて。

スリムなボディ。

水琴。
「なにかいますよ?」

理世。
「ん?何かって?」

水琴。
「遥か上空。」
「トンビと見間違えてます?」

祈。
「ほんとだ。」
「形が違う。」

三つ巴の戦い。

格闘戦をしているもので。

お姉さんはカメラを構えて。

望遠レンズで。

祈ちゃんも。

新しい紙にスケッチ。

理世。
「三体は敵同士なのか。」

祈。
「低空戦になってきたっす。」

長期戦。

戦闘機の旋回戦が繰り広げられたかと思うと。

慣性移動を展開。

お互いに爪や噛みつき攻撃を避けつつ。

接戦。

最初の脱落は黒龍。

白龍に中速度のビームを口から発射されて。

被弾。

負傷したのか。

逃げ去っていき。

呪われし龍は邪悪なオーラを放ち。

白龍に角を突き立て。

白龍はやられた瞬間。

爪で切り裂き。

噛み付いて。

呪われし龍を一旦地上に落として。

逃亡。

呪われし竜を魔術師が捕獲しようと。

接近します。

魔術師。
「Resistance is futile!」

暴れる呪われし竜。

火炎放射を魔法障壁で防ぎつつ。

束縛を開始。

魔術師。
「Target Acquired!」

腕部のマジック・クローで。

範囲が広い真空刃。

これで暴れられて。

蹴散らされた。

魔術師。
「Pwned!」

水琴。
「龍神復活のパフォーマンスのようです。」
「三体とも大きな怪我はありませんでした。」

理世。
「存分に撮れたぞ!」

祈。
「スケッチできたっす。」

水琴。
「いいもの見たなあ。」

この不思議な出来事を境に。

地域全体が聖潔な空気で満ち溢れて。

雰囲気が良くなりました。

同じような出来事は他の地域でもあるのですが。

ついに私の目の前でも。


17


それは突然でした。

元老院から追放された大宮楓という女性司令官。

巻き返しに挙兵。

フェキレ川で対峙。

大宮楓さんは兵力千五百。

防衛軍は兵士一万で。

睨み合いになりました。

わたしは学者として遠くから考察するアルバイト。

これに応募したので。

安全地帯から見守っております。

水琴。
「双眼鏡ギリギリ。」

フェーミナ。
「戦闘車両の姿が見えないわ。」

水琴。
「万能戦車が後から来るって。」

フェーミナ。
「これ砲弾飛んでこない?」

水琴。
「丘の上の。」
「ジャーナリストの旗へは飛ばさないよ。」

記者と一緒に。

女性記者が初仕事で。

意気揚々。

そのうち。

小規模な小競り合いが繰り返されました。

水琴。
「うわっ!やってる。」

フェーミナ。
「やけに小規模な戦いね。」
「川の周辺は遮蔽物が多くて。」
「渡航する部隊しか見えない。」

水琴。
「兵力差を考慮して。」
「少しでも崩れるまで布陣するみたい。」

フェーミナ。
「非常事態があんなところで。」

水琴。
「戦争の予測がいかに狂うものであるかを、開戦に先立って考慮すべきである。」
「戦争が長引けば、多くのことが偶然の結果になりやすいし。」
「その偶然に対しては双方とも同程度に無力であり。」
「その成り行きは不明のまま危険を冒すことになる。」

フェーミナ。
「人間は戦争に突入するとき。」
「最後の手段とすべき戦闘行動を最初に始めてしまうものである。」

水琴。
「そして既に災害を受けてしまってから。」
「言論を開始する。」

フェーミナ。
「にしても防衛軍の動きが悪いような。」

水琴。
「士気が低いのですよ。」
「大宮楓さんはアイドル将校ですから。」
「討ちたくないのが兵士の本音です。」

フェーミナ。
「それじゃあ攻めて来たら逃げるしかないんじゃない?」

水琴。
「止むを得ず発砲するでしょうけれど。」
「兵士はみんな不満顔ですね。」
「勝手な判断で追放して。」
「余程つまらないのでしょう。」

テントで宿泊。

三日が経過。

お昼頃。

防衛軍はさっさと帰宅準備を始めて。

退却。

女性記者さんも帰っていいとのこと。

水琴。
「え?なぜに?」

フェーミナ。
「かえでさんの部隊は昼寝しているわよ。」

女性記者。
「追放した元老院のメンバーがすべて交代させられて。」
「失脚したのよ。」
「妬みで戦争を誘発したから。」

水琴。
「えー!?」

この戦いの終結はあっさりしたもので。

戦争を誘発した罪で。

追放した主犯格が失脚してしまい。

和平のち。

両軍解散。

え?と思った内戦でしたよ。

その大宮楓さんは快活な人物で。

名誉回復。

一か月もすれば有名人。

とある日に。

清政執政官と会談。

出てくる時に。

???
「明日になれば、お前は俺に感謝するだろう。」
「今日だけは生き残るがいい。」

大宮楓。
「昨日は生きたぞ。」

???
「とりあいず明日になってみなー。」

不審者は去っていく。

察した大宮楓さんはすぐに戻って。

清政執政官。
「丁度いいところに丁度いい人が。」
「こいつを追い払ってくれ。」

娼婦。
「邪魔しないで。」

大宮楓。
「こいつを蹴散らせばいいのか?」

清政執政官。
「忍び込んできたのだ。」

大宮楓。
「なんなんだ?」

娼婦を追い出した。

同じ時間に。

執政官の不倫や。

未成年者を招き入れたと噂が流れていました。

大宮楓。
「人の世は今や英雄を必要とはしません。」
「私を持ち上げて、都合の良いように使う積もりだったのです。」

清政執政官。
「女を使ったトラップですか。」
「これまた定番中の定番ですなあ。」

かえでさん。

娼婦を磔にして。

投獄。

市民。
「執政官の不倫?未成年者?世論が操作されている前提で物を言え!」
「むかし習っただろう?」
「経験するまで分からないのか。」

大宮楓。
「みなさん落ち着いて。」
「訳は私が話します。」

市民は不審者をついに探し出して。

叩きのめした。

清政執政官。
「このご時世、きちんとこなせる人材だけが重宝される。」

大宮楓。
「そんなわけで。」
「市民をなだめてやってください。」
「あれでは投獄されている二人組みが死にます。」

清政執政官。
「きちんと処理しなければ。」
「元凶がいる筈だから。」
「いっその事。」
「災いの根源を断ってしまおう。」

大宮楓。
「我々の今日があるのは。」
「神々の加護があったからこそ。」
「その神々の住まう神国を見捨てることなど許されない。」

取り調べにお酒を盛られて。

つい白状した不審者と娼婦。

同じ手をいくつかの政治家にも使っていたと。

一味は指名手配されました。


18


公園。

理世。
「むかし美人の少女がおりました。」
「容姿端麗でおとなしく。」
「視線を集める存在でした。」
「ただ。」
「自分の容姿にだけ惹かれていて。」
「つまらない人であると言われているのに等しく。」
「大人しく沈黙しているのを辞めて。」
「獅子のように凶暴になり。」
「人々は逃げ去り。」
「仲間は増え。」
「同類ばかりで集まって。」
「集会ばかりを繰り返しつつ。」
「ゆっくり成長しています。」

フェーミナ。
「それは誰のことかしら?」

理世。
「さあ?誰のこと?」

フェーミナ。
「教えなさいよ。」

理世。
「むかし話ですよーだ。」

フェーミナ。
「むう。」

水琴。
「なんか親近感があるお話ですね。」

理世。
「民話だよん。」

水琴。
「それにしても。」
「後半は心当たりがあるよ。」

理世。
「そういう箴言が入った民話だからねー。」
「そろそろ休憩は終わり。」
「わたしがお客さんだったら?」
「そういう目線で物を見るのだ。」

服屋。

気の利いた品揃え。

マニアまで通うほど。

客層を変えない。

大宮楓さんはお姉さんと会話。

理世。
「むかし話。」
「かつてすべてをコントロールしようとした人間達がいた。」
「思うままにコントロールを実行したが。」
「個々は独立して好き勝手に動いているので。」
「遂に果たせなかった。」
「それでどうしたかと言うと。」
「力づくで従わせようとした。」
「結果は常に最悪なもので。」
「良い結果はとうとうひとつも結ばず。」
「すべてをコントロールしようとした為に。」
「それを学習されて。」
「一切のコントロールが不可能になった。」
「人はコントロールするのが好きなのか。」
「何であれコントロールに執着していた。」
「黒幕がとうとう分かってしまい。」
「全体主義によってコントロールする野望は潰れた。」
「ある時から人は人生や自由と叫んで。」
「コントロールすることに執着するようになった。」
「しかし人間はなんでも出来る訳ではない。」
「自分を知った人間は。」
「失意に落ちて。」
「自暴自棄になった。」

大宮楓。
「ははあ、それであの顔なんだな。」

理世。
「自由を謳歌した結果は自分勝手に振る舞える現実。」
「何にも従わないし。」
「従いたくない。」
「自由の結果は自分勝手に振る舞える快楽。」

大宮楓。
「ははあ、これであの涙なんだな。」
※テレンティウス・アンドロスの女。
「葬儀で亡くなった恋人の妹目当てに泣いて見せた。」
「ははあ、これが本当の理由か。」という意味。

こちらは女の子二人組み。

星空を見て。

水琴。
「わたしも宇宙の一部だ。」
「違う視点から。」

フェーミナ。
「どこへ行くの?」

遺跡の上から質量が違う物体を落として。

観察。

フェーミナ。
「何がしたいのよ?」

水琴。
「それでも地球はまわっている。」

フェーミナ。
「ピザの斜塔からやった奴ね?」

フェーミナはリンゴを持ってきて。

フェーミナ。
「これぞ万有引力の法則だ!」

水琴。
「えー?それならば。」

機械からの神が登場。

機械からの神。
「いい試合だった。」
「それは次に持ち越すがいい。」

水琴。
「今回は引き分け?」

フェーミナ。
「勝負というよりお遊びよ。」

機械からの神。
「次回を楽しみに。」
「試合は一日に何回もやらないぞ。」

水琴。
「そうですよねー。」
「そろそろ帰ろう。」

フェーミナ。
「ちょうど帰宅の時間よ。」
「また遊びましょう。」

水琴。
「またねー!!」

フェーミナ。
「むかし話ってあの娘そっくりだけれど。」
「そんなことないよね?」

フェーミナちゃん。

水琴ちゃんが理世お姉さんの話と重なると。

たぶんそうなんだと思います。

タダで作られないんです。

フェーミナ。
「偉人や天才は決して順境では無かったと伝えられている。」
「逆境の傾向が多い。」
「そういう人ってタダでそうなったんじゃないのね。」

察しました。

でもそんな水琴ちゃんに惹かれて。

翌日。

水琴。
「微笑んでいる。」
「なんで?」

フェーミナ。
「ちょ!微笑むのが不思議ですって!?」
「別にいいのよいいの。」

水琴。
「けっこう素敵。」

フェーミナ。
「犯して。」

水琴。
「女の子を好きにするの?」
「これはどう料理してあげようかな?」

フェーミナ。
「キャー変態!」

水琴。
「キャーひどーい!」

両者で体当たりして。

追いかけっこ。

両足で交互に足を蹴る。

ウサインボルト走法の水琴ちゃんと。

ちょっと笑みがこぼれる。

フェーミナちゃんの全力ダッシュです。(水琴ちゃんの方が足が速い)


19


農業をやっていた貴族がいて。

毎日。

農作業をして顔色が良いので。

市民の話題になっておりますし。

毎日パンを焼いて。

市民に届けている貴族の人もいて。

やっぱり話題になってます。

水琴。
「歴史的には有り得る光景ですね。」
「もう見慣れましたし。」

祈。
「ほうほう。」
「貴族が鍬を持つ?」
「新鮮だわあ。」
「依頼してみよう。」

勝手にスケッチ。

水琴ちゃんは農園地帯を横断。

河原で。

王族のひとり。

陶芸職人をやっておりまして。

未舗装道路に骨董品?

水琴。
「名人級の品物。」
「道路に溢れているけれど。」

車が通りかかった。

理世。
「おー!みことちゃん。」
「それは失敗作だそうだ。」

水琴。
「この出来で?」
「腕の磨き方が半端ないです。」

理世。
「あのお方は最高司令官として戦って。」
「任期を終えてないのに辞退して。」
「自分の義務を果たしたと言わんばかりに。」
「農作業しているのだー。」

水琴。
「庶民は言葉が出ないでしょう。」

理世。
「いまのうちに見てなー。」
「好機はさりげなく通過して。」
「捕獲するのは難しい。」
「常に不意打ちで来る獲物。」

水琴。
「好機って分かった頃にはいませんし。」
「捕まえていれば。」
「後になって決定打ですからねー。」
「しばらく見学です。」

こういう貴族が普通に居るので。

民衆も季節の風物詩として。

定番になりました。

さて。

国際連合。

神権政治は新しい展開。

規模が大き過ぎると維持できません。

どんな組織も規模の限界がありますので。

何カ国かに独立を促して。

自治権を与えられるように。

以前。

荒れたい放題だった歴史に終止符を打つ。

大宮楓。
「これ以上。」
「世の中が荒れてほしくはない。」
「見解は一致しており。」
「反戦論を取るようになりました。」

理世。
「まだ主権が欲しい国家もある。」
「でもそれが保障されてしまうと。」
「戦う理由もないし。」

大宮楓。
「好き勝手するのは辞めて。」
「天意に従う決心をしたんだよ。」

理世。
「戦いなさいと告げられたら戦う。」
「でも全員。」
「荒れ放題の世界の現状には。」
「配慮するようになったね。」

大宮楓。
「まだ戦争はあるだろうけれど。」
「段々とまとまってきている。」
「タイプ1知っているよな。」

理世。
「少しずつ永続できる文明になりつつある。」
「まだ途中だけれど。」
「その過程のひとつがこれかな。」

水琴ちゃん。

ユピテル様の神殿があったので。(ローマ神話の主神・多様性文化の為に建設されていた)

自由を返還しました。

自由には責任が伴います。

自由に振る舞った責任は負わなければならない。

いつか自由に値する日まで。

自由は私の元には帰りませんよ。

空に向かって。

水琴。
「わたしは神ではない、被造物として、だから限界も、なんでもできるわけではない。」


20


運命の女神は気まぐれだけが変わらない。

自宅の花壇。

ヒマワリ。

順調に育って。

後ろを見ると。

ドレス姿の美人さん。

思わず見惚れてしまうほど素敵で。

駆け寄ってキスしたくなりました。

幸運のピスティス。
「わたしが抱きしめると盲目になっちゃうよ!」

水琴。
「へ?」

幸運のピスティス。
「前だけに進んで横を見てない。」

水琴。
「横?」

幸運のピスティス。
「横道に逸れて。」
「カニになったように。」

水琴。
「カニですか?」

幸運のピスティス。
「蟹をまっすぐに歩かせるなどできぬこと。」
「自分の現在地と。」
「周囲の景色は見えないものだから。」

水琴。
「前に進むのはいいことだと言われていますが。」

幸運のピスティス。
「道を進むとやがて関所があるよ。」
「道がずっと続いているかなんて保証はないし。」
「大勢の人はこうして滅びの道に至る。」
「前だけに進んでしまうから。」

水琴。
「壁ってひょっとして行き止まり?」

幸運のピスティス。
「前ではなく。」
「常に横になって。」
「横に歩いて。」
「前に進む人たちと。」
「横に進むあなたで。」
「十字。」
「道はクロスする。」

水琴。
「占いの神様安倍晴明公。」
「そんな占い方があったような。」

幸運のピスティス。
「道が舗装されていたらなおさら。」
「滅びの道は広く。」
「多くの人が通るから。」
「その道は舗装されているのです。」

水琴。
「あの。」
「好きです。」

幸運のピスティス。
「自らが盲目であると知りなさい。」
「横道に逸れるのは意外と効果的。」

水琴。
「女性の私でも惚れる女性。」
「素敵。」
「あっ!待って!」
「あれ?消えちゃった。」

理世。
「なにしているの?」

水琴。
「綺麗な女性がいたんです。」

理世。
「ひょっとして私のこと?」

水琴。
「あれお姉さんだったの?」

理世。
「やだ妹ちゃん。」
「大人の女性を追いかけるなんて。」
「私ならここにいるわ。」

水琴。
「わあ!頬ずりしないで。」

なでなでされる。

水琴。
「お姉さんを意識しちゃいます。」

理世。
「そんなー!姉妹で百合?」
「それもいいわ。」

水琴。
「ああっ!」

押し倒されて。

抱きしめられた。

理世。
「大好き!」
「私の妹ちゃん!」

水琴。
「いい匂いです。」

理世。
「この娘は抱きしめると気持ちがいい・・・。」

ほっぺにキスされる。

理世。
「ちょっと加熱しちゃった。」
「でも私の趣味の妹ちゃん!」

水琴。
「シスコンです。」

理世。
「シスコン!?それは我が称号!」

水琴。
「もういいです。」
「今夜は一緒に寝ましょう。」

理世。
「どきどきする!姉妹百合!子守唄は必要かしら?」

水琴。
「別にいいです。」

この日は姉妹で就寝。

擦り寄って。

男性の話をしない限りは。

いつもこんな感じ。

似た者同士の夜を。

こうして迎え。

夢の中。

お姉さんが女王になって暴れまわっておりました。

理由は。

自分の百合の権利を巡って。

世界の女性たちと戦争しているもので。

目が覚めると。

抱き枕にされているわたし。

唇にキスされていて。

ちょっと内緒にしておきました。

寝相が悪いです。


21


人が作ったものには必ず欠陥があるものだと。

知っていますので。

広く意見を求められ。

お姉さんに取材が入ります。

女性記者。
「あなたの見識をお願いします!」

理世。
「意見ですか?」
「行き詰まったら前提から考え直す。」
「しぶとさは必要ですし。」
「間違えている前提で。」
「物を考えていたり。」
「いろいろやっていますが。」

水琴。
「私は邪魔しちゃ悪いし。」
「出かけてこよっと。」

田園地帯。

水琴。
「話題になってます。」

祈。
「確かに人が作ったものには欠陥がありますよ。」
「見れば分かるじゃないですか。」
「人のそうした側面を知らずに生きてはいけません。」

水琴。
「人は見たい現実だけ見るものだ。」

祈。
「創世記でヘビはこんな事言ってました。」
「反転した言い方ですが。」
「あなたはこれを食べても死なないから食べなさい。」
「そして目は開けるが。」
「善悪について知ったかぶりをして。」
「神のように振る舞うことになる。」

水琴。
「全体的に人には欠陥があるって見なしておいて。」
「性悪説を選択し。」
「不完全であると?」

祈。
「そういう解釈を支持してまっす。」
「文面だけ見たっす。」

水琴。
「基本的に人なんて我が強くて。」
「なにかと我を張りますので。」
「いのりちゃんの見識は支持します。」

祈。
「そういうわけで。」
「人が作ったものは完全無欠にはならんのです。」
「だから政府は自己診断をしているっす。」

祈ちゃんは風景を見渡して。

空を見上げた。

水琴ちゃんはカニのように動いて。

横道に逸れましたら。

スターフルーツを発見!

むしり取って獲得!

日本にも生えている果物の一種。

けっこう美味しいですよ。

それで。

今日から私は蟹になりました。

蟹をまっすぐに歩かせるなどできぬこと。

ギリシャの諺。

アリストパネス「平和」1083。

祈。
「なぬっ!?」

不思議そうに見られて。

接近。

水琴。
「なあに?」

祈。
「ちょっと動かないで。」

水琴。
「あっ!ちょっ!」

祈。
「大丈夫。」

ボディタッチの連続。

触られまくる。

なんとスリーサイズを暴露された!

祈。
「にひひひ楽しみにしてて。」

水琴。
「うわーん。」
「国家機密!」

祈ちゃん。

何したかと言うと。

私のフィギュアを制作して。

プレゼントしてくれました。

嬉しいので。

ほっぺにキス。

祈。
「けっこう練った甲斐がありましたー。」

水琴。
「腕を上げたね。」

祈。
「ほー私。」
「客観的に見られると。」
「腕前は上がっているのね。」

理世。
「人は決まってどこかに主観が入るものよ。」
「お約束じゃない。」

祈。
「人は百パーセント客観になったら。」
「自分が喜劇か悲劇か。」
「どちらかを演じていると知るだろうし。」
「客観という言葉は劇のお客さん視点。」
「お客さんはあらすじを知っているから。」
「人は百パーセント客観になったら。」
「喜劇か悲劇かどちらかだー。」
「もう一体待っててねー。」

まだ試作品があるようで。

友人に貰った中での。

究極の品。

リビングで大切に飾られておりますよ。


22


みことちゃん。

辺境の地アーレア。

城の前。

自由研究で。

招待状もあり。

クラルスという少女を訪ねたのです。

クラルスは善良な魔女の娘で。

両親は領主の補佐。

アドバイザー。

魔法学者として世界的な権威。

正装する女の子。

クラルス。
「はじめまして。」
「写真で見て以来。」
「好きでしょうがなかったです。」

水琴。
「あれは恋文だったんですね。」

クラルス。
「一緒に遊びましょう。」
「どうぞ中へ。」

私室。

水琴。
「雰囲気が重たいです。」

クラルス。
「子供同士の交流なので。」
「関係ありません。」

噂によると。

領主フルクトゥアトは先代の息子で。

先代を殺害して地位を手に入れた。

前の領主よりもずっと良い政治を行えるので。

尊大なフルクトゥアトという二つ名で支持されているとのこと。

水琴。
「駄菓子と雑誌。」
「贈り物。」

クラルス。
「噂の駄菓子ですね。」
「なるほど名実通りです。」

お菓子に夢中。

これでも六歳の女の子。

目を輝かせて。

雑誌を読む。

クラルス。
「お姉ちゃん好き。」

水琴。
「歳離れているからね。」
「でも会話が弾むのはなんでかな。」

クラルス。
「理性と自由意志を習ったんです。」
「選択できる可能性の余地すべてを。」
「選択可能性と呼びます。」
「行為者性は自分が実際にやったと。」
「意図的にしたと選択したもので。」
「なんとなくやったものすべてに該当します。」
「自分で決めたことを行うのが行為者性。」
「二階の欲求は。」
「欲望や欲求を承認するか自分で決められる選択権のことです。」
「自由意志はこれらすべてを包括したもので。」
「どれかが欠損すると決定論になり。」
「自由は奪われます。」
「他人が選択を奪う場合もある。」

水琴。
「詳しいね。」
「自分のすることは自分が無意識に決めているから。」
「選択の自由が効いている。」
「有効である限り責任はその人に生じます。」
「選択の自由が有効である場合は自分に責任がのしかかる。」

クラルス。
「理性についても教わりました。」
「感情的で感情論は動物の方が優れている。」
「理性こそ人であると教わりました。」

水琴。
「素晴らしい。」
「いい娘だね。」
「気が合いそう。」
「なにして遊ぶ?」

クラルス。
「エアホッケー。」
「カードゲーム。」

水琴。
「デッキは持っているよ。」

意外と接戦でしたね。

有利不利は一方のみにあらず。

両者不利で。

決着はつきません。

いちいち複雑な技をかけてくるので。

無理でした。

水琴。
「わお。」
「そのうち勝てなくなりそう。」

クラルス。
「複雑な技は効果的だって教わりました。」
「単純で明快な技は危険だって。」

水琴。
「学問って大切なんだねー。」
「改めて実感。」
「ハイセンス。」

クラルス。
「学問はどうして勧められたのですか?」

水琴。
「師みずからそう仰せられた。」

クラルス。
「自分に根拠や正統性があるのは凄いことです。」
「尊いです。」

水琴。
「師とは孔子。」

クラルス。
「こう言われると。」
「反対者がいた場合。」
「愚昧なのはどちらか誰の目でも明らかですね。」

水琴。
「フォールス・コンセンサス効果。」
「自分は一般人で適切な考えを持つと信じたい心理。」
「何人か見たけれど。」
「私は愚か者にはなれないみたい。」

クラルス。
「学問をしっかりやった凄い人だと思います。」
「クロスボウで鷲型ロボットを射かけるハンティングやりませんか?」

水琴。
「わーい!やるやる!」

たくさん遊びました。

ついでに。

いろいろ教えてくれて。

付近には魔族が住んでおり。

魔王という超自然的な存在を祭る。

右派は世界を支配するのは自分たちであると信じているが。

それを示せないのがもどかしい。

長年の目標になっている。

左派は享楽主義者か功利主義者の集まり。

魔族はかつて複数の文明が滅んだ際に。

敵対行動を取った子孫であり。

いまでは地方民族の共同体。

やたらに怪獣や魔法に詳しい。

散歩中。

クラルス。
「そっちの道は侵入禁止です。」

水琴。
「なにかあるんだね。」

クラルス。
「近くには瘴気と抗体が湧き出るパワースポットがあるのです。」
「瘴気は熱病の原因になるばかりか。」
「風に乗って各地に飛散する。」
「病気の者が浴びると。」
「同士討ちによって病気は消えますが。」
「必ず熱病になる。」
「抗体は風に乗って飛散し。」
「生物が活性化するけれど。」
「免疫暴走を引き起こす。」
「病気の者に投与すると。」
「病気は必ず死滅しますが。」
「必ず免疫暴走を引き起こす。」
「このふたつをエーテル疾患と呼ばれる。」
「互いに衝突すると打ち消しあう。」
「これは世界各地に存在し。」
「風に乗って飛散する。」

水琴。
「習ったことある。」
「世界各地であって。」
「研究が進んでいる。」

クラルス。
「私達一族は。」
「パワースポットの管理や調節。」
「暴走を止める術を持っている。」
「貴重な存在であると言われる。」

水琴。
「一般的な魔法使いでは無理であるとも習ったよ。」
「悪い魔女はわざと暴走させたりもする。」
「暴利を得たり疫病を流行らせたりもする。」

クラルス。
「世界各地にも私と同じで。」
「善良な魔女の子孫がいるから。」
「なにかあったら教えて。」
「わたしひとりで管理できてるから。」

水琴。
「それを制服さんに伝えてくれと?」

クラルス。
「もちろんです。」
「左派のインテリはパワースポットを駆除しようと考えていますから。」

水琴。
「もちろん了解。」
「胡桃を見つけたよ。」
「採ってあげる。」

クラルス。
「また来てほしいです。」
「お姉ちゃん。」

水琴。
「もちろん。」
「また遊ぼうねー。」
「夕方には帰らないと。」

クラルス。
「もう3時ですから。」
「あと1時間は独り占めです。」

水琴。
「小さくてたまんない。」
「あと一時間は一人占めされちゃう!」

アーレアは観光地として人気なので。

交通には困りません。

近いうちにまた来ると。

お城の広場で別れて。

幼女が趣味だなんて否定してませんよ。

いい友達が出来ました。


23


政治はあくまで結果論。

動機が善意でも。

結果が国家や市民の不利をもたらすのであれば。

それは悪政であり。

逆に動機が不純でも。

結果が良ければ善政と判定される。

これは公人と私人の評価基準の違い。

尊大なフルクトゥアト。
「我は偽善者となろう。」
「政治は民衆の欲望を満たすためではない。」
「公共の利益を実現するためなのだ。」
「そのために我は偽善者になる。」

息子フギオー。
「頼みがあります。」
「好ましい女性がおりまして。」
「結婚したいのですが。」
「できません。」

尊大なフルクトゥアト。
「どういう訳だ?」
「一から百まで言ってみろ。」

息子フギオー。
「それが。」
「思いを遂げたいのですが。」
「そういうわけにもいかないし。」
「そういうことにもできるのです。」

尊大なフルクトゥアト。
「何を企んでおる?」
「また良からぬことを?」

息子フギオー。
「ということは。」
「通りそうもない。」

尊大なフルクトゥアト。
「叶えてやると言われれば叶えてやるし。」
「叶えてやらないとも言える。」

息子フギオー。
「私がやったと言えるし。」
「やってないとも言える。」
「彼女が御託を言って乗り換えたのですから。」

尊大なフルクトゥアト。
「そうでなるならばやってしまえ。」
「後始末をしろよ。」

息子フギオー。
「ふははは私の天下だー。」

尊大なフルクトゥアト。
「人間はありとあらゆる政治形態を考え出したが。」
「支配階級の存在しない統治形態だけは考え出せなかった。」

親族の婚約者フェーヌムに接近。

乗り換えられた恨みもあってか。

夜中に襲撃し。

思いを遂げた。

婚約者フェーヌムは夫に訴えた末。

事を知った家臣は一致団結。

反対意見が続出した。

尊大なフルクトゥアト。
「皮肉だ。」

息子フギオー。
「どちらが正しいか分からん。」

しかしこの混乱に乗じて。

レウィスという若い指揮官が。

息子フギオーを殺害。

ずっと前から罵られていて。

暗殺してしまった。

レウィスは市民に説得した。

レウィス。
「先代を殺害して王位に就いた。」
「このような王にこの国の舵取りを任せていいのだろうか。」
「きっと先代の暗殺よりも酷い事をするに違いない。」

市民一同。
「そう言われると。」
「酷い仕打ちを受ける危険がある。」
「いっそのこと。」
「いままでの不信感をぬぐい去ってしまおう。」

民衆。
「ここら辺で倒さないと。」
「いずれどんな害があるか分からない。」
「未然に防ぐのだ。」

極めつけは尊大なフルクトゥアトの妻マーテルの姦淫。

市民の信頼を失った。

尊大なフルクトゥアトは魔族左派と宴会をしていたが。

事件を知って。

帰ってくると城門が開かず。

追放された事を知った。

尊大なフルクトゥアトを領民が追放した。

レウィス。
「我がこうしたのは己の為ではない。」
「公共のためである。」
「市民集会を開催し。」
「皇帝を選挙で選ぼうではないか。」
「我はそれまでの役者である。」

市民一同。
「それはいい。」
「みんな!選挙だ!準備しろ!」

投票で決まったのは。

クラルスの両親に治めてほしいとの依頼。

快く市民の承諾を得て。

領主に就任した。

ケルタ。
「国家は住民共同体であり。」
「公共の利益のために存在する。」
「その中で暮らす人々の幸福を高めることにある。」

レス・プブリカ構想。

皇帝に即位したかと思われたが。

実態は。

市民の代表者としての名誉と。

全軍最高司令権。

執務官の特権。

これらを束ねた。

デリケートなフィクションであった。

おまけとして。

「他に適切な者がいない限り、執政官特権は自動的に更新されうる。」

と書かれている。


24


柚月葉は困惑していた。

理世。
「それで息抜きに?」

柚月葉。
「その通り。」
「美人を見れば気が晴れる。」

理世。
「そんな。」
「口説いてる?」

柚月葉。
「あなたがそうお望みならば。」

理世。
「やだ!冗談うまい。」

貴族はパトローネスとしてクリエンテスという。

所属する市民を持っています。

パトローネスである貴族は。

クリエンテスの面倒を見ている。

就職や訴訟。

縁談や借金の申し入れまで。

どんな頼み事も引き受ける。

その数が山積みで。

苦戦していた。

柚月葉。
「専門的な知識は得ていたが。」
「数が多くてかなわん。」

理世。
「あなたのお父様があなたに引き受けさせたのも。」
「一人前だからよ。」

柚月葉。
「それは知っているが。」
「慣れるのが大変そうだ。」
「習うより慣れよ。」

理世。
「小さな事から始めるのよ。」
「いきなり大きな事から取り掛かると失敗するわ。」
「何事も小さな壷から。」

柚月葉。
「励ましをありがとう。」
「休憩したらまた行くよ。」
「待っている者達がいる。」

理世。
「頑張ってね。」
「あなた。」
「あらやだ妻みたい。」

柚月葉。
「あなたも冗談がお好きなようで。」

クリエンテスとは信義の関係。

クリエンテスは信義でパトローネスに対して。

なんでもしなければならない。

たとえ所属先が落ちぶれようとも。

犯罪者になってもついていく。

事実上の家臣であって。

奴隷でもある。

クリエンテスの数が多くなって。

ゆずはにも仕事がまわってきたので。

もう遊べそうにないと。

最後の狩猟から帰ってきた所だった。

柚月葉。
「子供から大人になるのは脱皮だよ。」

理世。
「あなたは巣立ちとは違うのね。」

柚月葉。
「憩いであったよ。」

理世。
「お手製クッキー持って行って。」

柚月葉。
「感謝する。」

馬で駆け抜けていく。

貴族も忙しい。

全員連携の社会ですね。

お屋敷には人が集まっている。

クリエンテス。
「名誉に与れて歓喜そのもの。」

柚月葉。
「正統な者は名誉を重んじる。」
「プライドは正統を現したものではない。」
「自分で勝手に値札を高くつけた奴だ。」

市民。
「正統派に所属している私は。」
「そういう意味で名誉です。」

柚月葉。
「うむ、常識をもっともらしく言う。」

良識人。
「物欲を肯定すべきです。」

柚月葉。
「アガメムノンがアキレウスと和解をはかろうとしたさいは。」
「多くの物が用意された。」
「物で命を贖おうとするのは神話にも見られる。」
「捧げものをして願いを叶えてもらった事例もある。」

少年。
「基本が成っていない俺達を憐れんでください。」

柚月葉。
「狡知と機略で乗り切るのだ。」
「勝者はいつもそうしていたと伝えられている。」
「大人ならば知っておいたほうがいい。」

サラリーマン。
「働くことに意義を見出す我々。」
「労働の中でこそ充実しているのではないか?」

柚月葉。
「神々は優れたことアレテーの前に汗をおかれた。」
「アレテーにいたるは長く険しい道。」
「はじめは悪路の中を突き進む。」
「ひとたび高みにいたれば困難だった道もあとは楽。」
「労働とはそういうものだという教え。」
「労働倫理の古典はけっこう見かけるな。」

庶民。
「争いが多くて。」
「手持ちの武器も人員も足りません。」

柚月葉。
「争いはエリスと言い。」
「善い争いもあるし。」
「競争アゴンも伝えられている。」
「誰も不正に勝利することは許されない。」

クリエンテス。
「神よ、誰も不正に勝利することを許さないでください。」

柚月葉。
「神々は癒しがたい不幸にも。」
「強力な忍耐を薬として。」
「定めてくださったのです。」

世界市民。
「敵を見よ、敵対する者を打倒して身を守るのだ。」

柚月葉。
「あまり高くもちあげれば、あとに押し止めることが容易ではない。」
「意見書を発行するか?」

クリエンテス。
「私達は神々に関わる定めを知っている者。」

柚月葉。
「なるほど、最高のものは到底活かせない者に与えられて。」
「味わえぬ者にも与えられる。」
「それをいつの間にか落とし物にするか。」
「最高のものを捨てたり、悪徳商人に売り渡したり。」
「価値を知らない。」
「華々しい舞台にいた踊り子も。」
「最高を与えられた赤子も。」
「彼らは何にも使うこともなく。」
「凡人以下に扱い。」
「分かっていても使用方法も浮かばない。」
「優等生は決して選ばれない。」
「どちらの側にも不正に勝利することを許さなかった。」

パトローネスはクリエンテスの話を聞くのが日課。

早朝から大勢が来訪するので。

相談に乗ったり。

実行力も使う。

クリエンテスはなんでも屋となり。

いつでも使われる。

今日も昼間から。

お客さんが多くて。

柚月葉が対応。

これが貴族の日常。

この国の風景のひとつ。


25


福祉施設。

町はずれの林の中にあり。

マンションみたいな建物に。

簡易的な個室がある。

それでもって。

カプセルホテルの設計。

運命共同体であるこの国は。

寄付や余剰財産を教会に寄付するなど。

財源が良好であった。

水琴。
「クリエンテスが就職難のようで。」
「応援に来ました。」

柚月葉。
「お見舞いかな。」
「私らが投資しているこの施設。」
「どうも最近経済が傾いて。」
「経済も軌道に乗らないのか。」

水琴。
「経済がうまくいったら次は文化ですよ。」

柚月葉。
「その通り。」
「いまは相談に乗った後で。」
「また様子を見に来るけれど。」
「良かったら話し相手にでも。」

水琴。
「憩いのお相手なら慣れてます!」

初期福祉は。

小麦粉や二等米を配布する程度で。

予算を節約していたり。

私立の学校や私立の病院が多い。

これによって税金の高さを抑え込んでいる。

ソフィスト。
「連帯責任がこの施設かな?」

柚月葉。
「うまいことを言う。」

ソフィスト。
「あなたも必要なものだけ身に纏って。」
「のびのび暮らす阿呆になれないか?」

柚月葉。
「野良犬になれと?」
「必要なものが知恵なら賢者だ。」

水琴。
「自分を確信している!素晴らしい!」

ソフィスト。
「いや何を言う。」
「自信だけで実質が伴っていないとな?」

柚月葉。
「驕りは青年期に発症するものだ。」

ソフィスト。
「私は正しい事しかやらんのだ。」

水琴。
「正しいと思ったら何でもいいのですか?」

ソフィスト。
「正しいという事で、なんでも許されるのです。」

水琴。
「なぜ正しさに執着するのです?」

ソフィスト。
「正しければ正しいので正しい事で。」

水琴。
「だって、正しいことが害になることがあるでしょう。」
※ソポクレス「エレクトラ」1042。

柚月葉。
「この人はほかの者たちからは知者だと思われ自分でもそう思っているが。」
「私にはけっしてそうではないと思われた。」

水琴。
「この人より私の方が知者だ。」
「どちらも善美のことを知らないが、この人は知らないのに知っていると思っているが。」
「私は現に知らないままに、知らないと思っているのだから。」

ソフィスト。
「産婆術を使うなあ。」

水琴。
「老人の愚か者は長く生きたのではなく、長くこの世にいただけだ。」

ソフィスト。
「若者の生み出したものが幻で偽物か、実のある本物かを手をつくして吟味できる。」
「自分で自らのなかから多くの立派なことを発見し生み出してのことだ。」

柚月葉。
「ならば。」
「正義に耳を傾け、暴力に頼ってはならぬ。」

ソフィスト。
「主情主義者は愚か者だ、合理的な生き物に立ち戻ったほうがうまくいく。」

柚月葉。
「人は合理的な生き物である、損得の方やリスク、ゲーム理論で合理的な行動や思考を必ず取る。」

ソフィスト。
「想定外に手強い。」
「これは楽しみが増えました。」

柚月葉。
「わざわざ。」
「弁論で遊んだのか?」

ソフィスト。
「なぜここに来たか?」
「いや、わしも人間ですからな。」
「人間にかかわることなら何でも。」
「無縁とは思えんのですよ。」

柚月葉。
「それはご好意を。」
「ブルーマウンテンがあるぞ。」

ソフィスト。
「貴様!俺が砂糖を何個入れるか分かっているのか!?」

水琴。
「神々に好かれたから敬虔なのか。」
「敬虔だから神々に好かれたのか。」

ソフィスト。
「ブラックでは飲めない!謀りおって!」

柚月葉。
「ふっ!仲間かな?」

ソフィスト。
「おお意外な共通点。」
「まさか同類だったとは。」

水琴。
「え?砂糖入れるんですか?」

ソフィスト。
「これは調味料だよお嬢ちゃん。」

水琴。
「とってもユニークな調味料ですねー。」

柚月葉。
「さて。」
「休憩したら。」
「クリエンテス一周。」

ソフィスト。
「いい道化師になれました。」
「お元気で。」

水琴。
「休憩のお相手であればいつでも。」

柚月葉。
「ありがとさん。」

施設はまだいくつもあって。

クリエンテスの頼み事はまだ多そう。

貴族パトローネスも楽ではない。

平民くらいが気軽でいいみたい。


26


裁判傍聴。

水琴。
「事実確認が満足ではないとか。」

理世。
「この前。」
「判決に不服で従わなかった奴が切り刻まれたし。」
「復讐届けが成立して死んだ奴もいた。」
「自然法から出たローマ法の威力は凄いよね。」

法廷。

裁判開始。

深夜。

人の居ない所で襲撃された。

召使は息絶える前に。

被告を目撃したと言った。

被害者の親族が被告を計画的殺人であると訴えたが。

内容が。

「ありそうなもの」だけで審議されてしまう。

水琴。
「ありそうなものだけで応酬の連続。」

理世。
「なんとでも言えるからかな。」

水琴。
「被害者側が相手を悪いなんて罵っています。」

理世。
「自分を基準に悪いと思った人を無条件で攻撃するなんて。」
「無駄に敵を作る行為なんだが。」

水琴。
「この裁判は長期化しそうです。」

被告。
「尋問されたんだ。」
「喜ばせることをなんでも話してしまう。」

被害者。
「証拠はあるんだぞ!」

裁判官。
「疑わしきは、被告に。」

被告有利で進んでいく。

水琴。
「こんなのが市民の間で勝手に個人で行われたら。」
「私刑がどこにでも行われたら。」
「自分たちの都合がいいように処理できますし。」
「気に食わない相手は殺害できます。」

理世。
「勧善懲悪なんてヒーローごっこさね。」
「悪いと思ったら攻撃なんて。」
「小学生だし。」
「私刑の本質なんじゃないかな。」

水琴。
「勧善懲悪に対して復讐する人もいますし。」
「神の怒りを知ることです。」

理世。
「自分が善とか正義とか信じていると。」
「知らないうちに罪作りをする。」

水琴。
「フォールス・コンセンサス効果で自分が正しいと信じているから。」
「罪を犯しても気づかない。」

理世。
「そして正当化するだけ。」
「そんな奴は痛めつけるに限る。」

水琴。
「みんな正当化しているに過ぎないという状況が発生しますね。」
「要するに善悪を逆転して。」
「自分たちが正しい事にして。」
「論証もなしに結論だけで相手が悪いと見なす。」

理世。
「客観的には人を裁いたので罰当たり。」

水琴。
「そうやって裁判官ごっこをするんです。」

理世。
「性善説は勧善懲悪ばかり。」
「神は善人など選ばない事をお忘れなく。」

水琴。
「フォールス・コンセンサス効果という心理状態。」
「あとは自分の行動や言動すべてを詭弁で正当化しているのが実状ですから。」

理世。
「それは暴力だぞー。」
「そういう悪と戦わなければならない。」
「勧善懲悪の暴行には徹底抗戦。」
「こっちは正当防衛。」

被告はでっち上げであると。

被害者側に復讐を嘆願して。

法廷は混乱。

水琴。
「ろくに事実確認もせずに人のせいにすると。」
「恨まれて敵を作ります。」

理世。
「敵はひとりでも多いぞ!」
「性善説は敵を作るのはうまい。」

水琴。
「敵対者が現れてようやく知るのが性善説。」

理世。
「愚か者は打たれてはじめて知る。」

目撃証言だけで争って。

それは「ありそうなもの」ではあるが。

「ありそうなもの」だけで訴えるのは意味不明。

事実関係が明らかではなく。

満足な証拠も無かった。

そこで召使の讒言が発覚して。

荒れた。

役人が避難してくれと告げる。

水琴。
「立場を利用するとか。」
「卑怯な技が大好きらしい。」

理世。
「性善説の心の中。」
「卑怯!?いい響きだ!だって悪者倒すんだもん。」

水琴。
「その悪者ってどうやって立証するんですか?」

理世。
「悪者に関する判断基準はありません。」

水琴。
「主観で悪者扱い?危険思想者なんだなあ。」

理世。
「性善説の勧善懲悪はそれが普通。」
「危ない連中なので。」
「そうして罪作りする。」
「主観で悪者として扱ってきたら。」
「暴行してくる。」

水琴。
「うわあ。」
「善悪が狂ってます。」
「悪者だと思ったら危害を加えてくるなんて。」

理世。
「愚者のお手本。」

水琴。
「愚か者ってそういう傲慢なんだね。」
「バカみたい。」

本当は苦情を言いつつ。

乱闘になりかけている中。

捨て台詞で退避。

その後。

裁判所内で剣を抜く人も出たとか。

あーあ。


27


飛行場。

水琴ちゃんと理世。

技能維持訓練。

X-02に登場。

X-2試験機をベースにした練習機で。

アビオニクスがほんどをサポート。

高度十万フィートで飛行する。

第六世代航空機。

民間機にしてはハイクオリティ。

水琴。
「腕落ちたの?」

理世。
「お父様から指摘された。」

水琴。
「エースパイロットは。」
「生存と撃墜数。」
「やられても生き残り。」
「撃墜されないことも条件。」

理世。
「特に空戦には興奮は禁物。」
「冷静さが決定的な要素。」

離陸。

設定された空路を飛行して。

大気圏離脱。

青い地球と宇宙という領域。

高度を上げると。

地上の見え方が違ってくる。

プラズマジェットエンジンによって。

宇宙に出るのは簡単。

宇宙ステーションがモニターに表示され。

かなり旧式な建造物で。

地球の衛星軌道上に固定。

内部には自由に入れます。

理世。
「ドッキングする。」

水琴。
「新鮮だなあ。」
「科学パワー万歳。」

ガイドさんが常駐する。

現在とある星に研究施設を移設したので。

廃棄されたも同然。

せっかくなので。

民間向けに開放されてます。

中に入る。

筒状の構造で。

前後左右あらゆる方向に施設が入っているのです。

理世。
「無重力で動きがいいね。」

水琴。
「計算して直観で進んでますよ。」

理世。
「速いな。」

水琴。
「お姉さんが遅いのです。」

理世。
「ニュータイプ仮説なんてあったけれど。」
「あれは本当にある何かを指していたみたいだ。」

建造物がけっこう大きいので。

計器や生活スペース。

実験器具がいっぱい。

ごちゃごちゃしていて。

洗練されてはいません。

特に生活スペースは入りたくないほど。

水琴。
「むかしの技術は整理整頓が苦手?」

理世。
「簡略化されていない段階だし。」
「小型化もされてない。」
「でも骨董品みたいな面白さがある。」

水琴。
「おもちゃに見えてしまうほど。」
「アナログだなあ。」

理世。
「そろそろ戻ろう。」

練習機に戻り。

大気圏突入。

落下速度を落としたので。

熱は酷くない。

あとは着陸するだけでしたが。

技術も進むとこんなのが当たり前。

理世。
「やっぱり少し腕が落ちていた。」
「トレーニングが必要という判定。」

水琴。
「たまに飛ばないと。」
「好きな時に飛べないと困るからね。」

理世。
「またの機会に飛びに来る予定だわ。」

宇宙が身近な存在となった現代。

人々の関心は宇宙の遥か彼方。

恒星に見惚れたり。

クエーサーマニアも多い。

きちんとした航空機なら宇宙に行けて。

オールトの雲※まで抜けることも可能ですから。

星空に憧れるだけだったむかし。

いまは目の前で尊ぶ時代。

時代は進みますね。

この世界が生きて終わり。

どこか別の場所に行くのだとしたら。

技術や人類の進歩が説明できません。

人が知らない。

神様だけが知っている。

この世界の真実。

人が知るのは。

一部だけなのかもしれません。


28


祭壇に。

水琴。
「神様、私はあと何をすればいいんですか?」

いつもの朝。

珈琲を入れて。

休日なので。

いつもの美術品漁り。

アニメ関係とか。

古本屋に行こうとしておりましたが。

来客。

フリースクールの仲間。

ゆかりちゃんでした。

アイドルに欠員が出てしまい。

ミニコンサート開催出来ず?

水琴。
「それで私に?」

ゆかり。
「ダンス上手だったから。」

水琴。
「確かに基本は習ったことありますし。」

ゆかり。
「それと・・・。」
「美人の女の子だから。」
「きっと・・・。」

水琴。
「私も一度はステージに立ってみたいですし。」
「いろんな服着て見るのも悪くありません。」

ゆかり。
「引き受けてくれるの?」

水琴。
「訓練のひとつ。」
「アイドルはエンターテイナーですからね。」
「エンターテイメントだからこそのアイドルです。」
「楽しみにしている人は失望してしまいます。」
「引き受けますよ。」

ゆかり。
「よかったあ。」
「ライブは来週なの。」

水琴。
「たまに見ているので。」
「振付などは半分覚えてます。」

ゆかり。
「体術が得意だもんね。」

水琴。
「豪華な服装も慣れてます。」

三人組ユニットで。

ひとりの欠員も痛手。

メンバーのひとり。

奈々ちゃんから歓迎されて。

即興で振付を仕込まれる。

ダンスは基本を習ったことがあり。

一応は出来ます。

次の日曜日。

ミニステージと言えども。

観客は千人規模。

ゆかり。
「みんなー。」
「今回はゲストのみことちゃん!」
「知る人ぞ知る手練!」

水琴。
「みことちゃんだよー。」
「今日は一日みんなに捧げます。」
「よろしくー。」

ダンス。

けっこうきつい。

ノーミス。

パフォーマンスを用意したんです。

得意の棒術で演武。

高速回転技など。

おもちゃのバズーカを手で受け止めて。

弾速がそこまで速くなくて。

弾が大きいので。

キャッチ出来ました。

観客が盛り上がる。

ナナ。
「みことちゃんは普通の女の子とはかけ離れております。」
「そんな斬新な人をお楽しみください。」

水琴。
「おもちゃのライフルを突きつけて。」

突きつけられたおもちゃのライフル。

怯んだと見せかけて。

銃身をいきなり掴んで。

横に振って。

きりもみ回転させて。

おもちゃの銃は跳ね飛ばされてしまう。

観客は興味津々。

ゆかり。
「さて余興は終わったよー。」
「これからが本番だー。」

ナナ。
「みんなの時間を歓喜にしちゃうぞー。」

一人前にやるだけで精一杯でしたが。

こんなのをずっとやるんですね。

振付やダンスの精度は並の上で。

観客も知られざるアイドルがいたと。

今回も良好な結果に終わったとか。

ゆかり。
「今日はありがとー。」

ナナ。
「あの娘は三日後に復帰できるの。」

水琴。
「パフォーマンスで支持を獲得していたに過ぎないので。」
「ちょっと次は期待できないかも。」

ゆかり。
「充分だよー。」
「みんな喜んでた。」

ナナ。
「みことちゃんは美人だから。」
「惚れちゃった人もいるんじゃない?」

水琴。
「まさか公になるとは思わなかったよー。」

事務所に呼ばれました。

プロディーサー。
「ナイス!非凡だな!」

水琴。
「私は特別なんですか?」

プロディーサー。
「ここだけの話。」
「資本家とスタッフ含めて。」
「全員で一体化したグループでしてね。」
「メンバーを労働者ではなく。」
「実働部隊として扱っていて。」
「首脳陣は司令官として机に立つ。」

水琴。
「軍隊みたい。」
「アイドルと観客がひとつになっていましたし。」
「メンバーがいないとおしまいですか?

プロディーサー。
「優れた人材を集めて育て。」
「自分たちを賭けている。」
「実行部隊が作戦の成否を決めるのだから。」
「労働者階級として扱うのは勝負を捨てている。」

水琴。
「資金だけが目当てですと。」
「あまりに凡人の発想ですし。」

プロディーサー。
「お金だけ求めたらつまらない組織になる。」
「その場しのぎの行き当たりばったり。」
「そんな凡人の集いが勝てると思いますか?」

水琴。
「軍隊として戦果を挙げ。」
「首脳陣は机で戦略を練る。」
「哲学があるんですね。」
「凡人の発想ではないです。」

プロディーサー。
「私はアイドルを労働者として扱った結果を知っている。」

水琴。
「だから私は飛び入り参加出来たのですね。」

プロディーサー。
「アイドルは最前線で行動するかなめ。」
「全員連携でないと壊れるだろうし。」
「お偉いさんの口癖を教えてあげよう。」

水琴。
「経営哲学がすごい。」

プロディーサー。
「賽を投げろ。」

美人アイドルは難なく受け入れられて。

新メンバーでいいのでは?なんて意見も。

このアイドルグループ。

メンバーが移籍して増えるらしくて。

他のアイドルグループと合併するとのこと。

それまで私が代役。

大変ですね。

向いてないです。


29


アイドルのアドバイザー。

研究家として。

ノウハウをまとめて欲しいと頼まれて。

一生懸命に。

ステージを観察。

レポートをまとめます。

水琴。
「アイドルは象徴であって。」
「みんなの憧れを実現するもの。」
「みんなの求めているものを実現する。」

ゆかり。
「みんな好きー!」

ナナ。
「みんなの恋人だよー!」

水琴。
「献身的なお仕事なんだと思われ。」
「目的は歓喜であり。」

ゆかり。
「次なにしてほしい?」

観客。
「百合!百合!百合!」

ゆかり。
「だってー。」

ナナ。
「人肌脱ぐぞー。」

ステージで抱きしめあったアイドル二人。

水琴。
「観客には望みがあって。」
「願望を実現するのもアイドル。」

観客。
「みことちゃんはいないのー?」

ゆかり。
「みことちゃん隠れてるの?照れちゃった?」

またステージに出された。

歌は下手ではないです。

後から四人組が入場。

グループは一致団結。

水琴。
「まず観客に好かれる存在であること。」
「次に献身的な行動や言動が出来ること。」
「観客の要求を満たすこと。」
「来訪者を喜ばすことができるか?」

プロディーサー。
「大衆に仕えても誰にも感謝されないし苦労するだけ。」
「しかし。」
「目の前の人々を喜ばせる事しか考えなければいいようだな。」

水琴。
「アイドルらしいアイドルってなんですか?」

プロディーサー。
「おお!アイドルとしての活動ばかり考えて。」
「アイドルそのものを確立することが出来なかった。」

水琴。
「そもそもアイドルってなんですか?」

プロディーサー。
「それを探ってもらいたい。」
「学者タイプの女の子は珍しいから。」

水琴。
「アイドルと観客が一体化する必要がありそうです。」

プロディーサー。
「んー斬新な言い回し。」

水琴。
「自己犠牲の上に成り立つ。」
「エンターテインメント。」
「エンターテイナーとして。」
「人々の対象を買って出る。」
「役者であって。」
「みんなの恋人。」
「自分の願望を叶えてくれるし。」
「憧れの対象という役者をする。」
「公共の所属者である。」
「存在が公共に属する。」

プロディーサー。
「一を聞いて十を知る。」
「短期間でそこまでの考察を。」
「もっとやってくれー。」

水琴。
「グループの方向性。」
「何を叶えるかを判断しないといけない。」

プロディーサー。
「アイドルとはなんですか?」


水琴。
「支持者は彼女や対象者を恋人として見なすが。」
「自分ではなく全員の共通資産であるとも言っている。」
「象徴としての人物であるので。」
「エンターテインメントを提供する象徴であって。」
「みなが好きだと熱望する人物たちである。」
「多くの場合は魅力的で、際立った才能こそ持たないが。」
「自分たちが求めているものをアイドルは実現してくれるので。」
「お互いに利益が生じる献身的な活動であって。」
「対象の女性や男性に対して好意を抱いており。」
「誰でも恋が出来るという魅惑の人物で構成される。」
「英雄とは異なるものの。」
「人々の何かを満たしてくれる。」
「女の子が好きな男性が女性アイドルに魅了されるように。」
「誰でも対象者を好きになれる。」
「性的興味というよりは。」
「趣味やパフォーマンスによって観客を満足させ。」
「自分の好きな行動を代行してくれる存在でもある。」
「出雲阿国という芸人が。」
「出雲大社の巫女であると自称し。」
「出雲の遣いとして芸能文化を目覚めさせたように。」
「大衆に仕える側面もある。」
「ということは。」
「アイドルとは支持者のみを喜ばせる仕事であり。」
「支持者を喜ばせて自分も脚光を浴びる。」
「お互いで有益な芸能活動であると思われた。」

プロディーサー。
「アイドルも次世代型に更新されるように。」
「文化のひとつとして確立するのだ。」

水琴。
「アイドルとは文化のひとつの形であり。」
「アイドルとは文化の一部である。」
「従って、アイドルとは文化である。」

プロディーサー。
「素晴らしい!こんな短期間で!」
「頼む!こんな人材なかなか居ない!」

水琴。
「わかってますよ。」
「では続けましょうか。」

その後も。

見たまんまをギリシア哲学者みたいに。

文章に凄まじい密度で書き記して。

プロディーサーに見せたら。

実力が買われて。

企画を兼任することになってしまい。

アイドル研究家としてチームに在籍して欲しいと。

ノウハウを貯める係に就任し。

報酬まで支払われちゃって。

こういうのは得意なので。

早熟な私?

早くも就職?


30


森林。

低山であれ。

ひとりで行くのは危ないので。

仲間は必要です。

森林浴。

水琴。
「ここでやっと自分の不自然さと向き合えます。」

フェーミナ。
「健康とはこういう意味であると。」
「森林浴をすれば分かるわね。」

水琴。
「空気がまるで違う。」
「森林に入ってやっとわかるものがある。」

フェーミナ。
「進化論はなぜ進化に至ったのか?」
「進化はなぜ発生したのかの記述がないわ。」
「なぜ猿から人間が誕生する必要があったかとか。」

水琴。
「歴史的に科学が常に正しい訳ではなかったです。」
「人間の知恵の限界ですなー。」

フェーミナ。
「あっちにウサギがいる。」
「拳銃持ってる。」

水琴。
「距離が遠いよ。」

銃声。

イノシシが倒された。

フェーミナ。
「ラッキーストライク!」
「まぐれもあるもんね。」

水琴。
「おわあ!ナイスキル!」

剥ぎ取る。

モザイク処理中。

フェーミナ。
「お肉は山の幸。」
「食べるためだけにいるのではなくて。」
「自然を表現するのが動物と虫。」

水琴。
「人もかつて自然状態の弱肉強食であった。」
「人はそれを嫌って社会を作り出したけれど。」

フェーミナ。
「教科書の内容が覆されるように。」
「わたしらも歴史に埋もれるのかしら?」

水琴。
「せいぜいいいように埋葬されましょう。」

フェーミナ。
「時代と共にエピステーメーも変化する。」
「時代に合わせて自分を変えていかないと。」

水琴。
「時代が進むにつれすべてが変化してしまい。」
「むかしのやり方は通用しなくなる。」

フェーミナ。
「いくら強くても。」
「この世界では力で解決できないことが多い。」

水琴。
「変化に順応する者が生き残る。」
「自然淘汰。」

フェーミナ。
「ロートルはおもしろくないでしょう。」
「老人の愚か者は長く生きたのではなく、長くこの世にいただけだ。」※プブリリウス・シュルス「金言集」55。

水琴。
「まだ自然状態が続いているんですか?」

フェーミナ。
「動物はいいけれど。」
「人が自然状態に置かれるのは許容できない。」
「誰でもそうじゃない?」
「弱肉強食で自分が食われる側だったら?」

水琴。
「食べる側も天敵は同じ食う側ですよ。」
「ライオンの天敵は同じライオン。」

フェーミナ。
「人の自然状態は危険よ。」
「神様が抜けさせてくれてありがたいわ。」

水琴。
「人の自然状態は神様が脱出させてくれた。」
「人の自然状態を救ったのは神様。」

フェーミナ。
「再び自然状態に戻りたいのなら。」
「反意を剥き出しにするがいい!」

叫んだ。

やまびこになってしまう。

フェーミナ。
「ぎゃあああなんてこと!」

水琴。
「ジーザス!」

顔を伏せて。

下山。

フェーミナ。
「財宝見つけた。」

水琴。
「お金持ちはみんな設置して遊んでます。」
「七千円!?」

フェーミナ。
「二度目のラッキー!」

いつもの絵描きさん。

橋の下から。

祈。
「おや?美少女二人組。」
「今晩はイノシシ鍋ですかー?」

フェーミナ。
「欲しいのなら言いなさい。」

祈。
「げへへー。」
「イノシシもぐもぐ。」

水琴。
「最近狂ってる。」

祈。
「あれ?芸術家って大体が狂ってるよ?」

フェーミナ。
「どっかの文献で。」
「自分の描いた絵で気絶した人もいるとか。」

祈。
「狂気の無い天才なんていますか?」
「狂ってないと芸術は無理です!」

水琴。
「当事者しか分からないのでしょう。」
「お肉おいしいよ。」

祈。
「さっき菜食主義者が宣伝してたけれど。」
「投石された。」

フェーミナ。
「ベジタリアン達は理解できない。」

祈。
「食べていいのです」
「聖書の創世期には思いっきり書かれていて。」
「私はああいう思想は無理です!」

水琴。
「なんかのヒントになりそう。」
「押し付けたのであれば。」
「異端者として扱いますが。」

祈。
「ベシタリアンは最初それやりました。」
「他人に勧めるのはどうかな。」

フェーミナ。
「宗教的には肉食は許可されていますし。」※神道とキリスト教。

水琴。
「時代の中でそういうのも生まれるのです。」
「私達も同類だったら?」

祈。
「じゃあ喜劇として登録してくださいと。」
「訴えておこう。」
「今夜は豪勢だあ。」

フェーミナ。
「またねー。」

水琴。
「エース女子!エース女子!」

今日は思わぬ収穫。

人は自然状態から。

神様に助けられて。

自然状態を脱出しました。

感謝は行動で現しましょう。

祭壇をスルーしたことはありません。


31


合理。
道理にかなっていること。
論理によくかなっていること。

-非合理。
-不合理。

合理化。
むだをなくし能率的に目的を達成できるようにすること。
特に生産性を向上させること。
うまく理由づけて、もっともらしくすること。

合理主義。
(哲)
すべての認識は理性に基づいて得られると考える立場。
デカルト、スピノザ、ライプニッツらがその代表。

何事も理屈に合うか合わないかで割り切って考えていこうとする態度。

-合理主義に徹する。

合理的。
物事の進め方が道理にかない。
むだのないようす。
合理的な方法。
合理論。

理世。
「みんな人情とか主情主義とか。」
「やたらに同情するように教育するけれど。」
「結局はゲーム理論で説明できるから。」
「子供と大人の違いよ。」
「参考書あげる。」

水琴。
「ゲーム理論ですか。」
「人は合理的な生き物ですし。」
「合理性ってこうやって身につくんですね。」

理世。
「力ある者は冷酷であるべきよ。」

水琴。
「人情ってむかしだけに通用した考え方みたい。」
「時代は進んでいくから。」
「私もいつか古い者になったりして。」

理世。
「自分を時代に合わせていく。」
「自分を更新しないと。」

水琴。
「自分を更新?」

理世。
「定期的にアップデートしないと。」
「あなたの読んでいる通りになるわよ。」

水琴。
「人の世の変化はめまぐるしい。」
「中世ですら。」
「いつの時代も老人は古い人間でしたからね。」

理世。
「それで故事になっちゃったし。」

水琴。
「とりあいずゲーム理論で合理的な生き物に還ります。」
「後は定期的に自分を更新し。」
「アップデートして。」
「時代に置き去りにされないようにします。」

理世。
「賢明。」
「古い連中の言うことはもう参考にはならない。」
「新しいものはどんどん出てくる。」

水琴。
「古い物で役に立つのは古典や聖典だけです。」
「真理が書いてあるから。」

理世。
「それを良い意味で古いと呼んでいるわ。」
「悪い意味で古いのもある。」

水琴。
「悪い意味で古い?故きを温ねて新しきを知る。」
「これとは違うんですね。」

理世。
「歴史的に古いほど力強くて。」
「歴史的なものは良いもの。」
「歴史に関係ない個人や時代の特徴。」
「人の進歩などから旧式が出る。」
「歴史は人類の原点であって基盤。」
「黄金時代。」
「しかし個人や時代の特徴。」
「進歩や変化についていけないのは旧式で役に立たない。」

水琴。
「そういうのも単純ではありませんね。」

理世。
「そゆこと。」
「みことちゃんも合理性が必要だったでしょ?」

水琴。
「そうだよー。」
「人情とか御託とかもうどうでもいいもん。」
「損得とかのゲームに過ぎない。」

理世。
「人は合理的な生き物。」
「もっと教科書持ってくるから。」
「置いておくね。」

水琴。
「余暇に見るねー。」
「今日はコンディションが良好。」

理世。
「お姉さんも今日は冴えているので。」
「哲学的問答法を試してみる?」

水琴。
「久しぶりのチャレンジですねー。」

理世。
「よしチャレンジ。」

水琴。
「私は自分が主観的であることを知っている。」
「自分の考えはどうしても主観であって。」
「主観という範疇から決して出たりはしない。」
「しかし自分の考えや解釈が主観であることを知っている点においてだけ。」
「客観的であると認識できる。」

理世。
「自分が主観的であると知っているのだから。」
「思わずも自分から主観が湧き出てきて。」
「いつの間にか自分の中で主観が満たされている。」

水琴。
「そういう自分の中に主観が占領していて。」
「それを見つけることができる点においてだけ。」
「やや客観的であるのも自分。」

理世。
「自分の客観が正しいか?という質問についてはいいえ。」
「しかし自分が主観ばかりで物事を見たり処理するのは知っている。」
「主観に占領されつつも。」
「客観的な要素。」
「私の中には主観と客観が半分ずつ入っていて。」
「互いに対立しているのです。」

水琴。
「わたしたち主観が客観を正しく認識できますか?」
「そんな事は無理です。」
「ただし自分が主観であることは証明できます。」

理世。
「認識できたであろう客観が正しいか?なんて問わないでください。」
「客観を正しく認識できるとは思ってません。」
「私はどうせ主観的ですから。」

水琴。
「また、その客観が正しいか証明できますか?」

理世。
「不可能です。」
「人は客観主義にはなれますが。」
「人の認識には限界があります。」
「可謬主義と言われます。」
「認識には限界があるため。」
「客観的に物を見ても。」
「限界があります。」
「これは神学として証明できました。」
「本当に客観的であるのは神様だけです。」
「神様が完全に客観であるのは全知全能だからで。」
「人の客観的認識には限界があります。」
「従って、主観的な要素が必ず残ります。」

水琴。
「客観的になろうとしても限界がある。」
「そして主観的な自分が残される。」
「こうなると悲しい。」
「客観に真実あり。」
「真理は常に客観であるから。」
「主観が払拭できないというのは。」
「自分勝手に解釈した現状や現実ばかり見なくてはならない。」
「主観が広がる現実を見続けないといけないという意味になります。」
「そんなことがしあわせなのか?」

理世。
「完全に客観的になれない時点で。」
「主観に頼るしか無い。」
「しかし主観が何であるか知っているので。」
「真実である客観の中には入れない。」
「人は常に客観の中に入っていられない。」

水琴。
「私たち主観が客観を正しく認識できるか?可謬主義です。」
「客観的になろうにも限界があります。」
「おまけに主観が正しくないことは証明できます。」

理世。
「主観には証拠がありません。」
「主観は証拠能力の無い証拠ばかり見つけてきます。」
「裁判になれば主観が負けるのは目に見えています。」

水琴。
「裁判になれば主観に勝ち目はありません。」

理世。
「客観が正しいか?これには証拠を提示できないので。」
「神様に頼るしかありません。」
「神様はすべてが見えています。」
「全知全能なる神様だけが客観そのもので。」
「完全無欠な客観は神様から提示されます。」

水琴。
「自分がいくら客観と言っても。」
「実は証明できないのが真実なのです。」
「私たちは主観に支配される運命です。」

理世。
「主観に支配された生き物は。」
「私たちに凄惨と破壊を与え。」
「自らも主観の支配には気づきません。」
「自分が主観なら主観に洗脳されているので。」
「主観こそが私と言わんばかりに。」
「人は自分が主観であると気づけない。」

水琴。
「それが客観かどうか証明してください。」
「私は無理であると。」
「どんな証拠を持ってくれば証明できるのでしょうか?」

理世。
「その客観が正しいと証明できません。」
「これが結論なので。」
「主観に縋って生きていく愚かな生き物なのです。」
「自分が客観であるかどうか証明しろと言われても。」
「それでは私情を捨てないといけません。」

水琴。
「人は不完全な生き物ですから。」
「客観を正しく認識できないという欠陥があるのです。」

理世。
「そして主観に溺れて洗脳されるだけ。」
「しかしこれらを知っているという点において。」
「主観ではない部分もあります。」

水琴。
「主観を知ってしまった以上。」
「自分の考えも正しいのか分からない。」
「ひょっとして自分の認識って勘違いなのでは?」

水琴。
「この世に正しいものなんてひとつもない。」
「自分の考えですら。」

理世。
「そのように自分すら信用できなくなる。」
「何が正しいかなんて分からない。」
「自分が主観であることは知っている。」

水琴。
「ただし、人は本来合理的な生き物。」
「性善説はみんな善人という現実を否定する考え方。」
「性善説はとある条件下では機能する。」
「みんな善人というのは違った。」
「人間について知っていくと。」
「性善説は割と夢想家で。」
「性善説を取れるうちはいいものです。」

理世。
「性悪説は現実的。」
「人間の持つ悪の側面が丸わかり。」
「性悪説から性善説を見ると。」
「あんな中でよく呑気な事を言っていられるのか。」
「結局それでいいように丸め込まれているのが性善説。」

水琴。
「性悪説を極めると。」
「本来の合理的な生き物に立ち戻れます。」

理世。
「性悪説は偽善的な人助けなどしないので。」
「井戸に落ちかけている赤子など。」
「赤子を助ける理由は必要ないが。」
「自分は偽善者では無い。」
「人がなぜ悪をするのか知っているので。」
「自分の中にある悪の要素ですぐそうする。」
「性悪説は正当防衛を好みます。」
「緊急避難も好みます。」

水琴。
「性善説は勧善懲悪ばかりで。」
「自分が善で正義と妄信しているので。」
「やたらに攻撃性が強い。」
「ある条件下で極めて暴力的で排他主義。」
「普通とは違うからという理由で暴力に出ることも。」

理世。
「性善説は敵を作るのが得意ですし。」
「人は合理的な生き物であると知るべきです。」

水琴。
「話題がズレたけれど。」
「客観を正しく認識できるかは限界がある。」

理世。
「証明しろと言われても。」
「証拠を出せません。」
「客観の認識には限界があります。」

水琴。
「自分の考えが常に客観であるとは限らない。」
「自分の考えや捉え方が主観であると知っておこう。」

理世。
「人にとって良いのは合理主義になること。」
「性善説に感化されていた時期。」
「基本的な帰属のエラーが頻発し。」
「悪者イコール殺せ。」
「悪者だから罰を与えていい。」
「その悪者ってどうやって立証したのかな。」

水琴。
「性善説は独善的なので。」
「それでうまくいくならばそれでいいのです。」
「うまくいかないのなら。」
「性善説はあなたの考え方ではないのです。」

理世。
「徹底的に掘り下げると。」
「学校教育にも問題があったりして。」
「何に基づいて教育しているのか。」
「論語を精読すれば済む話。」

水琴。
「読み書きと簡単な計算と医術だけ必要で。」
「行政手続きと政治形態の把握。」
「基本的な科学。」
「法律関連だけ知っていればなんとかなるし。」

理世。
「リベラルアーツを基点にたくさん知っておくと。」
「有益なことばかりで満たされますし。」

水琴。
「さてと、客観的になろうとしても限界があった。」

理世。
「自分の主観も真実を言わない。」
「真実は客観の中にあります。」
「自分の主観を信用してはいけない。」

水琴。
「主観は説伏だけは上手。」
「自分の主観を信用しないことにした。」

理世。
「かと言って完全に客観にはなれないから。」
「それらは知っているので話も違う。」

水琴。
「証拠能力のある証明だけが真実。」
「いちいち裁判になるだけだわー。」

理世。
「やっぱり人は不完全なので。」
「完全に客観にはなれない。」
「合理的な生き物になら立ち戻れる。」

水琴。
「じゃあわたしのこれはすべて主観だという意味じゃないの。」
「主観なんてもうわからない。」

理世。
「もはや知識ではない。」

水琴。
「というウォーミングアップでした。」

理世。
「ああ頭が・・・・・。」

水琴。
「古代ギリシャの哲学者はこれが普通なんですけれど。」

理世。
「そうであるならば化け物みたいな知性じゃない。」
「古代ギリシャって超人の集いなの?」

水琴。
「むかしは超人が多かったですねー。」
「あはは・・・。」

理世。
「歴史上の人物って超人なのね・・・。」
「歴史上の天才もこれまた超人・・・。」
「あはは・・・・・・。」


これは早朝の出来事。

お姉さんは職場に出勤。

私はフリースクール。

フェーミナちゃんが合流。

水琴。
「おっはー。」

フェーミナ。
「今日もいい女だねー。」

水琴。
「やだ朝から冗談。」

フェーミナ。
「本気だったら・・・?どうする?」

水琴。
「そんな・・・。」

フェーミナ。
「なーんてうふふふ。」

水琴。
「でも・・・嬉しかった。」

フェーミナ。
「えー?」

水琴。
「なーんてうふふふ。」

フェーミナ。
「あはははあなたうまい冗談。」

いのりちゃん。

なぜか釣りをしていた。

祈。
「こうやって男を釣れたら喜ぶ人がいる。」

フェーミナ。
「それは獲物でしかない。」
「なんのための恋?」

祈。
「知らない。」
「どっかで会った三十路に言ってくれえ。」

水琴。
「うわー皮肉。」

祈。
「ソクラテスは。」
「みんなは食わんがために生きているが。」
「私は生きんがために食うという点で。」
「違っているのだとよく言っていた。」

フェーミナ。
「その意味分かるわ。」

頻繁に見かけるいのりちゃん。

どこにでも居ます。

水琴ちゃんとフェーミナちゃん。

ふたりで手を繋いで登校。

朝はいつもこんな感じです。

今日という日を摘み取れ。※ホラティウス「詩集第一巻11.8」にある男性詩人から女性への箴言。


32


お姉さんに撮影対象にされて。

着せ替え人形ですよ。

素敵な服を次から次へと。

理世。
「妹ちゃんの青春を女の子一色にしてやるー。」

情熱を注ぐお姉さん。

友達もやってきて。

フェーミナ。
「あらまあいい趣味。」

祈。
「これは見ておくべきだー。」

水琴。
「少しは嬉しいですよ。」

理世。
「好きー!」
「女の子ってこうでなくちゃ!」

なんだか主役になって。

ミニパーティーと化す。

水琴。
「別に悪くはありません。」
「別に好きですし。」

理世。
「ソクラテスは若者たちに。」
「たえず鏡に自分の姿を映してみて。」
「美しければそれにふさわしい者となるように。」
「また醜ければ、教養によってその醜い姿を隠すようにせよと勧めた。」

水琴。
「はー。」


フェーミナ。
「抱きしめるー。」

水琴。
「わあ!」

理世。
「おっと頂き!」

祈。
「ナイスショット!」

フェーミナ。
「いいことしよう。」

水琴。
「ちょっ!やめ!」

押し倒されて抱きしめられる。

理世。
「はあはあ・・・カメラはあはあ・・・。」

祈。
「おーいやり過ぎだぞー。」

水琴。
「もうっ!」

フェーミナ。
「あっ!そこは!」

反対にくすぐられて。

上に乗られたフェーミナ。

理世。
「友達とイチャイチャはあはあ・・・。」

フェーミナ。
「なによ?私の顔がそんなに綺麗?」

水琴。
「眺めていい?」

フェーミナ。
「どうぞ。」

理世。
「頂き写真カメラナイス。」
「ぐわあああああ!」

祈。
「申し訳ないが。」
「怪我人が出た。」

水琴。
「なんてことを。」

フェーミナ。
「大丈夫ですか!?」

理世。
「あーもうダメ。」

祈。
「マンダウン!マンダウン!」

水琴。
「萌え死に?」

フェーミナ。
「気絶してるし。」

しばらくお待ちください。

理世。
「この写真は国宝だからね。」

祈。
「はい。」
「素晴らしい過激ぶりでした。」

理世。
「もう一回やってくれる?」

フェーミナ。
「もう一回ふざけろと?なに言ってんの。」

水琴。
「さすがにやめてください。」

理世。
「ああ!これはお酒だった。」
「飲んじゃった。」

祈。
「酒を飲んだからといって言い訳にはならない。」
「酒を飲んだのはあなたですから。」
「結果責任となります。」

理世。
「ああ寝かせて。」
「萌え死にする。」

祈。
「ベッドまで担いでいくよ。」

フェーミナ。
「しょうもない。」

水琴。
「着せ替えパーティーは終わりですね。」

介抱された理世。

意外な形で自爆してしまったお姉さんと。

治療が必要な怪我人が発生した。

危ないパーティーとなってしまい。

微妙な想い出となりました。


33


劇場。

喜劇が上演されていて。

安全地帯からの暴力という題名。

水琴。
「冒頭から不正をするやられ役ですか。」

理世。
「これ面白いわよ。」

祈。
「なんかいろいろ出てきて。」
「人間あるあるが飛び出した。」

理世。
「普通の生活風景ね。」

喜劇は。

ごく普通の社会生活が営まれて。

登場人物は平凡ながら。

元凶と言われる役者が。

安全地帯である舞台の上から。

いろいろ投げてきて。

それが原因で事情がもつれたり。

悪化するという内容。

役者。
「なんでこうなるんだ!」

道化師。
「俺のせいじゃないぞ!」

夫人。
「あいつが安全地帯から悪さしている!」

水琴。
「自分が安全であると知っているから。」
「あんなに暴力的なんですね。」

祈。
「安全なので高圧的になってるっす。」

理世。
「人間も冗談じゃないって感じかしら。」

だんだんとエスカートする。

安全地帯からの攻撃。

しかし。

元凶と言われる役者は遂に。

舞台から転落してしまい。

登場人物に発見されてしまう。

逃げようとするも逃げ場が無い元凶。

言葉にならない台詞を言う。

役者。
「お前は言っていることとやっていることが滅茶苦茶だ!」

元凶。

また言葉にならない台詞を言う。

夫人。
「支離滅裂!」
「訳のわからないことを言っている!」
「意味不明!」

水琴。
「すぐ人が殺されるような状況下では。」
「ああいうのは黙って怯えているもんです。」

理世。
「自分が安全だから。」
「調子に乗っていたのね。」

祈。
「立場を利用していたり。」

水琴。
「自分の安全を失うと。」
「余程の臆病者だったんだあ。」

祈。
「安全だから暴力的。」
「安全を失うと命乞いしてるし。」

今度は虐められた元凶。

また舞台装置に上がると。

またもや登場人物を乱す。

しかし道化師が装置の上に這い上がってきて。

引き釣り降ろされた。

後は奴隷として売られてしまいました。

こうして平和を取り戻した。

という演劇の定番。

前座の喜劇なので。

これからが本番。

シェークスピアの「空騒ぎ」が始まります。

自分が安全だから攻撃的になるのは。

有名な「スタンフォード監獄実験」がありますね。

徹底した囚人役と看守役と分かれて。

模擬刑務所を作った実験で。

日に日に暴力化した看守役が手に負えない。

禁止されていた暴行も発生して。

実験は中止された。

残酷な人間の側面が露呈しましたよ。

これを摸索した喜劇のようです。

所でシェークスピアの喜劇は?

こういうのは劇場に行ったほうがいいので。

言葉や文章では言い表せません。

ごめんね。


34


クラルスちゃん。

書庫を見せてくれて。

巨大で。

区分けされたエリア。

砦の跡地に建設されて。

厳重に守られた図書館でもある。

古書や古典なら揃っていて。

いっぱいあるけれど。

全部読んだら数年必要なので。

欲しい本だけ貰っておきました。

水琴。
「いいの?」

クラルス。
「余っているから。」

水琴。
「お宝!」

クラルス。
「ちなみにコピー版しかないよ。」

水琴。
「ならもっと貰っていい?」

クラルス。
「うん好きなだけ。」

水琴。
「宝の山!」

今回は日帰り。

安い宝石がごろごろ転がって。

大きな結晶で満たされる。

地底湖に案内されました。

クラルス。
「安物の宝石だらけなので。」
「見向きもされない。」
「最深部にはダイヤモンドが大量に採掘出来て。」
「資金源。」

水琴。
「これ持ち帰ってもいいの?」

クラルス。
「売っても数キロで三千円くらい。」
「割に合わない。」
「全員がやったら余剰品として価格が下がる仕組み。」

水琴。
「神様の仕掛けた罠かな。」

クラルス。
「神は、善をけっして与えようとは思わぬ人に対しては。」
「多くの金を与えながらも思慮深さの点では貧弱なものとし。」
「一方を取り去ることで両方を奪うものなのである。」

水琴。
「神様は与えますが奪う方でもあります。」

地下一階エリアまでは観光用として開かれていて。

宝石を持ち帰れます。

クラルス。
「都会っていいところ?」

水琴。
「いい所ばかりではない。」
「人が多くて混雑しているし。」
「狭苦しい。」
「悪い所の方が多い場合もある。」

クラルス。
「この世の最高の場所であると思っていました。」

水琴。
「住むだけ損するよ。」
「人が多い分、複雑化しやすいし、いろんなことが難しい。」
「田舎だと開けているし。」
「広々として健康的。」
「私の住む街は都会か田舎か分からないけれど。」
「私としては田舎の方がまし。」

クラルス。
「この世の最高の場所であると思っていました。」
「さっきまで。」

水琴。
「そんな単純じゃないよ。」

クラルス。
「物事は常に複雑怪奇。」

水琴。
「事実は小説より奇なり。」

クラルス沈黙。

水琴。
「黙っていても、顔が声と言葉をもっていることがよくある。」

クラルス。
「人間に関することは何事も安定していると思うな。」
「そうすれば、幸運に恵まれても喜びすぎることもなく。」
「不運においても、悲しみすぎることはない。」

水琴。
「人間の運命は車輪のようなもので。」
「くるくると廻りつつ。」
「同じ者がいつまでも幸運であることを許さぬものです。」

クラルス。
「ソクラテスは自分は何も知らないという。」
「まさにそのことだけは別として。」
「それ以外のことは何も知らないのだと言っていた。」

何か持っている。

記念に。

ルビーの原石を貰って。

水琴。
「わあ綺麗。」

クラルス。
「観賞用。」

水琴。
「ありがとう。」
「しばらく眺めているかも。」

一緒に散策して。

クラルスちゃんの雰囲気が変わってきました。

暗くて真面目だったのに。

イタズラっぽい雰囲気。

少し変化がありましたよ。

元気っ娘というより。

ミステリアス少女という感じで。

頭が硬い雰囲気から。

柔らかい性格へと。

これを待ち望んでいたのがクラルスちゃんの両親で。

わたしを招待するのは大吉だったとか。

そんなあ。

照れちゃいます。

たまに泊まり込みで遊びに来ては。

妹に会って。

その周辺の人達と親しくなり。

友好関係。

なんだか豊かになって。

嬉しい限り。


35


再び訪れた。

辺境の地アーレア。

お泊りで遊んで。

娘の教育に良い影響があるので。

招待された。

その日の深夜。

豪華な寝室。

宿泊していた友人の水琴ちゃん。

水琴。
「おやすみ。」

クラルス。
「ちょっといい?」

水琴。
「なあに?」

クラルス。
「ちょっと体験してみたいことがあるの。」
「いいことされるってどんな感じ?」

水琴。
「わたしで良ければ。」

クラルス。
「よろしくです。」

水琴ちゃん。

みことちゃんはクラルスを襲った。

押し倒して。

うつ伏せになるクラルスをおもいっきり抱きしめた。

クラルス。
「んんー。」

水琴。
「抱き心地いいです。」

クラルス。
「ああ!もっと強く。」

水琴。
「好きー。」

激しく抱きしめられて。

クラルス。
「いやあ!ああああっ!」

水琴。
「なでなでしてあげる。」

仰向けにされて。

撫でられる。

クラルス。
「こういうのなんですね。」
「お相手が女の人で良かったです。」

水琴。
「男の子だと多分おもちゃにされちゃうからね。」

クラルス。
「一度やられてみたかったのです。」
「女の人に。」

水琴。
「そんなに好きなの?」
「幼女百合は違法だぞー。」

クラルスはこういうのが好きだったので。

体験したみたくて。

ちょうどみことちゃんがいたのです。

クラルス。
「お姉ちゃん。」
「大好き。」

水琴。
「あれ?妹になっちゃうのかな?」

クラルス。
「私の趣味を叶えてくれてありがとう。」
「またお願いします。」

水琴。
「いえいえ。」
「お安い御用。」
「義姉妹になっちゃうのかな。」

クラルス。
「好きです。」
「お姉ちゃん。」

水琴。
「そういうことでいいかなー。」
「今日はおやすみ。」

クラルス。
「おやすみのキスは?」

水琴。
「いけない女の子になっちゃだめー。」

クラルス。
「いけないことを頼んでしまいました。」

水琴。
「欲情は理性に不従順である。」
「私も同じ頃があったなあ。」
「もごもごされたいとか。」
「モザイクで覆い隠されるような。」
「そういう色事を全体的に。」
「細部にわたって。」
「知ってしまえば。」
「話は変わるけれどね。」

ぎゅっと抱きしめて。

ベッドの中に引き込んで。

抱き枕。

よしよしして。

寝かせました。

お姉ちゃんと呼ばれたみことちゃん。

なんか嬉しくて。

発育に好ましい影響があり。

たまに来てほしいと。

いろんな人から言われるようになっちゃって。

義姉妹が誕生しました。

朝。

クラルス。
「おはようのキスは?」

水琴。
「恋人じゃないです。」

クラルス。
「お姉ちゃん。」
「やってくれなきゃヤダ。」

水琴。
「仕方ないなあ。」

ほっぺにキス。

朝食の時間に。

いい友達が出来たと思ったら。

年齢が影響して。

義姉妹になってしまった。

思いがけない偶然でした。

クラルスちゃん。

いずれ修道女として訓練に出されるそうで。

会う機会は減るでしょう。

大天使ミカエルの写真がプリントされた。

フォトキーホルダーを贈りました。

お別れして。

文通してます。

祈。
「はれー?誰か射止めた男の子がっ!」

水琴。
「妻にはなりません!夫婦にも!娼婦にも!」

フェーミナ。
「好きなんでしょ?」

水琴。
「相手は女の子です!」

フェーミナ。
「友人かあ。」
「あたしとは別に親友?」
「会ってみたいわ。」
「興味深い。」

水琴。
「あなた方も特別です!」

フェーミナ。
「みことちゃんもいい女になった。」

自宅に帰ってきて。

理世。
「また招待状。」
「ルシオラちゃんからだよ。」
「けっこう忙しいね。」

水琴。
「遊ぶのに忙しいなんて。」
「珍しい事ですなー。」

理世。
「いいもんじゃん。」
「精神的に豊かで。」
「サポートするわよ。」
「航空機なら親譲り!」

この頃の諸国は。

応酬戦略を取っていて。

最初は協力しますが。

相手が裏切ったら自分も裏切る。

応酬戦略の特徴は。

最初は協力して。

相手が協力すれば協力を続行。

その後は相手が前回取った手を真似して。

コピーして返し続ける。

もちろん良い事も返します。

裏切りから協調に変化すると。

こちらも同じ事をすると合理的。

これで高い戦績を挙げており。

ロシアの天文学者「カルダシェフ」1932。

タイプTはまだ少し後になりそうです。


どんなに悪い事例とされていることでも。

それが始められたそもそものきっかけは。

立派なものであった。

「ユリウス・カエサル」


36


クラルスを魔女だと疑った者達が宗教裁判を訴えたが。

善良な魔女であることは密かに知られていて。

反対に侮辱であると返り討ちに遭った。

市民。
「今度はなんだ!?」

庶民。
「また誰かが荒らした!」

国民。
「なんとかしてくれ!」

レウィス。
「いま調べております。」

大臣。
「このお方で良かった。」
「この政治のほうがずっとか平和的だ。」

首謀者は追放された尊大なフルクトゥアトであって。

民主制にしたい一部の民衆が担いだ。

尊大なフルクトゥアトは挙兵。

レウィスは有力な家臣になっていて。

軍を指揮。

反乱軍兵士七百。

レウィス軍兵士は千三百と。

戦況は互角と思われた。

市民。
「この野郎!」

庶民。
「自分たちの国は自分たちで守れ!」

国民。
「弱い奴は置いていく!」
「後から徒歩で来るんだな!」

尊大なフルクトゥアト。
「なんだ!?市民が撃ってきた?」
「反撃で30人既に殺してしまった?馬鹿者!」

市民が自前でこしらえた武器で。

尊大なフルクトゥアトは攻撃されると。

市民に被害が。

暴君みたいな展開になってしまい。

担いだ一部市民と乱戦。

魔族が脅威に感じて。

右派が攻撃してくる。

レウィス。
「挟み撃ちするぞ。」
「書状を送れ!」

魔族の攻撃を受け。

軍隊は崩壊。

背後から攻勢を仕掛けられた尊大なフルクトゥアト。

決戦の末に。

その場で殺されて。

反逆は終わってしまった。

遠くで戦闘が繰り広げられている中。

クラルスはパワースポットを調整。

クラルス。
「エーテル疾患に慣れると病気知らず。」

水琴。
「魔法の源でしたっけ?」

クラルス。
「瘴気は魔法発動の動力だから。」
「抗体は制御と回復を司る。」
「来てくれたのは。」
「魔法耐性をつけてほしいから。」

水琴。
「ちょっとじわじわくる。」

クラルス。
「微熱になります。」
「しばらく動かずに静養してくだい。」
「後で抗体の根源に向かいます。」

水琴。
「中枢が複数あるなんて。」
「魔法使いって無敵そうでかっこいい。」

クラルス。
「確かに派手な攻撃で大勢を相手に出来ます。」
「MPの消耗も激しくて。」
「MPが尽きると気絶したり。」
「無力化されちゃうし。」
「火起こしから人探し。」
「扉開閉。」
「呪いはリスクの方がずっと高くつきますが。」
「生活面でも役立つのが魔法です。」
「洗脳などの計略は短時間しか持ちませんよ。」
「探索においては切り札なんです。」

水琴。
「魔法使いも万能ではないのかあ。」
「教えてくれてありがとう。」

クラルス。
「少しくらい警戒は解かないと。」
「決して無敵ではないのは専門家しか知りません。」

クラルスは祭事をして。

パワースポットを調節。

帰還する頃には微熱を発症。

薬を飲んで。

王室専用機航空機に乗らせてもらえて。

自宅に戻りました。

自然災害の多発は何が原因か?

左派の連中は勝手に瘴気と抗体がまき散らした災厄であると推測。

各地のパワースポットを爆破してしまう。

清政執政官。
「そこまでやったら。」
「タダでは済まさないぞ。」

大宮楓。
「軍隊の指揮は手馴れています。」

清政執政官。
「兵法は実戦経験がすべて。」
「そなたのような武官がいて頼もしい。」

一時的に荒れ地や渇水。

湖の汚染や。

作物の異変などが発生するも。

すぐに回復。

クラルスの修復が速かったので。

たいした被害は無い。

左派は捕えられて磔になった。

大宮楓。
「ここに愚か者がいる。」
「自然は絶妙なバランスで成り立っていること。」
「結局の所。」
「自然の改造や。」
「自然破壊は。」
「自分たちの所へ報いとしてやってくる。」
「目に見える形で。」

清政執政官。
「作物が出来ず食料不足。」
「渇水で水不足。」
「資源枯渇で経済を直撃。」
「誰もが知っていて。」
「自然改造や自然破壊は人類の終わり。」
「自然の終わりは人類の終わり。」
「自然を排除すると人は機械化するしかない。」
「そこまで愚昧になりたくないので。」

左派の連中は見せしめに処刑された。

この一件で。

市民の結束は強化されていく。

この決定をしたのは元老院であった。

元老院は世襲ではなく。

正統派から選出されて。

半分は終身制。

実力があれば。

実績と一緒になった場合のみ仲間に入れる。

新聞によく出てくるよん。

若者は燃えていた。

フェーミナ。
「私も入れるかしら?」

理世。
「いくら正統派でも。」
「何の実績も無い若者を入れるわけにはいかないし。」
「実力のある人物を捨ててしまうのも惜しいので。」
「可能であるとは言える。」

フェーミナ。
「自分の正統性を示せばいいのね。」

理世。
「実績があればスカウトもある。」

フェーミナ。
「手が届きそうじゃない。」

理世。
「実力だけではなく。」
「かと言って特別能力が無くても。」
「きちんとこなせる人材ならば重宝される。」

フェーミナ。
「そういう人選もあるのね。」
「気の利いた事。」

この国では自分の正統性を示せるかがポイントで。

活気があった。

実力が並の上であっても。

無難な人物であったならば。

いかに能力で見劣りしてもチャンスがあるのです。

スローガンは。

・確かなことを打ち捨てて。
・不確かなことを追い求めるのは愚か者のやることだ。
ヘシオドス「エー・ホイアイ」断片61。

「より正しい」よりは「より確かな」道が好まれる。

天意に沿っていれば。

正しさに執着しなくていいので。

スローガンは元老院の施設にある看板にも刻まれている。


37


ルシオラは終身独裁官に任命されまして。

記念コンサートが開かれました。

ルシオラ。
「国家とは住民共同体であり。」
「一部の特権階級や個人の利益のためならず。」
「人々の幸福を高めるためにある。」
「今後とも物的豊かさのみならず。」
「精神的豊かさに重きありにて。」
「人々の平和を達成したい。」

誰かが出てきて。

王冠を渡すと。

パフォーマンスとして被って見せたが。

すぐに返却し。

月桂冠を被って。

遊んで見せた。

歌姫として知られるルシオラは。

アイドル政治家として世界的に認知されていた。

水琴。
「可憐な女の子が。」
「大きくなりましたなあ。」

理世。
「親近感が湧くのは個人的に理解できるが。」
「妹ちゃんだけが関わってないぞー。」

水琴。
「同い年なのでー。」

理世。
「妹ちゃんも後に続けるよ。」

祈。
「新しい肖像画のタイトルになれー!」

フェーミナ。
「私はどうしたのよ。」

祈。
「もう完成しておりますよ。」
「さあお楽しみに。」

フェーミナ。
「あなたの家に行くべきよね。」

祈。
「さあ?ふたりきりなので。」
「なにしますか?」

フェーミナ。
「ちょっ。」
「襲わないよね?いくらなんでも。」

祈。
「ゲームで遊んだり?うへへ。」

フェーミナ。
「からかうんじゃないわー。」

コンサートは大成功。

さて。

徹底的な寛容さを持つルシオラの政治は。

地域をまとめて。

未だ従わない国々を仲間に迎い入れ。

市民権や議席を与えた。

一時的ではあるが。

強大な連合国家と化し。

自治権の勢力が一気に増大したので。

ある者たちは快く思わなかった。

トリスティス。
「ルシオラ嬢は何をお考えで?」

不審者。
「もはや連合国家ですから。」
「大きくなり過ぎた組織の管理は大変ですぞ。」

トリスティス。
「執務室に王冠があった。」

不審者。
「あれはゲームのキャラクターのものです。」

トリスティス。
「それでも。」
「思い切って反逆すれば。」
「勢力図を覆す事は可能だ。」

不審者。
「少し前に無政府主義者が接触していたそうで。」
「追い返されましたが。」

トリスティス。
「証拠は揃っているのか?」

変質者。
「可能であることは否定できません。」
「状況としては。」
「自治区から独立すれば。」
「国際連合と正面から戦えますし。」
「きっと同調する国が続出するでしょう。」

トリスティス。
「あの少女にそこまでの力が集約してしまっていいのか?」
「まったくお考えが分からないのだ。」

変質者。
「ルシオラ嬢は王位に即位するのでは?」

トリスティス。
「有り得ない話ではない。」
「どうする?」

不審者。
「直接問い質しましょう。」

トリスティス。
「皇帝になる計画書?なんてものが届いているが。」

変質者。
「誰宛だ?」

トリスティス。
「郵便物を奪い取れ。」

不審者。
「証拠はこれだけですが。」

トリスティス。
「狂ったのか?俺達か?ルシオラ嬢が!?」

数日後。

確信を持ったトリスティス達数十名は。

宮殿に討ち入りを決行。

ルシオラ。
「なんですか!?」

トリスティス。
「王位に就くのであれば。」
「ここで死んで貰いたい。」

ルシオラ。
「否定はできません。」

トリスティス。
「では。」
「わたくしは歴史の犠牲になりましょう。」

剣を向けられて動けない。


38


ケルサス公。
「何があった!?」

騎士。
「護衛兵が数十名斬られました!」

ケルサス公。
「なんだと!?」

後ろからトリスティスを目撃。

水琴。
「うわっ!?」

トリスティス。
「ご友人で?すぐに離れなさい。」

水琴。
「失礼します。」

トリスティス。
「否定しないとはどういうことか?」

ルシオラ。
「私が自由にした人々が再び私に剣を向けることになるとしても。」
「そのようなことに心を煩わせたくない。」
「何にも増して私が自分自身に課しているのは。」
「公義であって。」
「自分の考えも含め。」
「忠信に生きることである。」
「だから他の人々も。」
「そうであって当然と思っている。」

一部始終を見ていたケルサス公と家臣数名は激怒。

剣を抜いてトリスティス達数十人に斬りかかった。

乱戦の途中。

水琴ちゃんに不意に斬られて。

逃走するも。

宝剣グラディウスの不思議な力は猛威を振るい。

逃れられない。

トリスティス。
「神よ!我らの地獄への門出に栄光を!」

応戦するトリスティスは遂に殺され。

隙を見て逃げ出したルシオラと水琴ちゃんは合流。

ルシオラは急いで連絡しようとするが。

宿を取っていた理世が感づいて。

車を手配しており。

離脱に成功。

水琴。
「ひとまず駐屯地に?」

ルシオラ。
「はい。」
「叔父様がおります。」

柚月葉。
「せっかくだが。」
「配下10人で護衛する。」
「共の者しか居なくてね。」

ルシオラ。
「贅沢は言いませんよ。」

話はすぐに広まり。

賞金稼ぎが功を焦ってしまった。

休憩に立ち寄った宿屋。

取り囲む。

柚月葉。
「追ってきた連中をまず片付けないと。」
「なにされるか分からないぞ。」

水琴。
「シールド発生装置を装着しますね。」

ルシオラ。
「何分展開できますか?」

水琴。
「カートリッジなので。」
「とりあいず10分銃弾を防ぎます。」

理世。
「援軍はすぐですよ。」
「宮殿の連中は全員死亡しました。」

VS賞金稼ぎ。

本当はこちらの待ち伏せで。

逆に包囲して。

賞金稼ぎを仕留める。

柚月葉。
「この世界では誰もが善で。」
「誰もが悪になる。」
「そして誰が被害者で。」
「誰が加害者か。」

小姓。
「変われない世界、しかし諦めは悪くてね。」

賞金稼ぎが宿の近くに陣取るが。

四方八方に布陣した手勢が十字砲火を浴びせる。

拳銃で応戦。

次々と撃ち殺す。

柚月葉。
「撃て!臆病者!」

銃撃戦。

水琴。
「私が防ぎます。」

ルシオラ。
「任せるわ。」

ルシオラちゃんをひたすら庇う。

柚月葉。
「向かい合って初めて本当の自分に気づく。」
「似てはいるけれど。」
「正反対だな。」

賞金稼ぎが逃げ出すので。

ある程度追撃を加える。

柚月葉。
「貴様たちも、無辜の民たちの犠牲を。」
「その痛みを思い知るがいい!」

追手を撃退。

すぐ車を出すことに。

空には無人機が出現しており。

いつの間にか居なくなった。

黒煙だけが遠くに見えたんです。

軍隊の駐屯地に送り届けました。

叔父。
「ううむ。」
「私が床に伏せている間。」
「よくもやってくれたものだ。」

ルシオラ。
「もう会えないものかと。」

叔父。
「まだわしの目は黒いぞ。」

トリスティス達はその日のうちに戦死。


39


諸国の意見がまとまらない中。

ルシオラは法王様に護民官特権の授与を申し出る。

この地域は決して容易く治まる場所では無くなった。

しかし皇帝の誕生は一種の方向性を付加し。

勢力図を変化させてしまう。

元々が自治区ですから。

そこでルシオラは護民官特権を半永久的に取得し。

事実上の皇帝とすることで。

地域を治める事になった。

聖職者を中心とする元老院も設置され。

以前より権力が強化されつつ。

地域の平和達成に尽力。

市民の承認を得て。

遂に地盤が固まった。

ルシオラ。
「またお世話になりました。」

柚月葉。
「持ちつ持たれつ。」

ルシオラ。
「そうですよね。」

水琴。
「私が仕留めたのは主犯格だったそうで。」

ルシオラ。
「私の友人にして最大の勇者よ。」
「尊敬しているわ。」

水琴。
「私も。」
「大物になったルシオラちゃんを尊敬しています。」
「もう偉人ですから。」

ルシオラ。
「ありがと。」
「お父様の築いた自治区ですから。」
「私の時代で潰えるのではないかと。」
「心配の連続でしたが。」

柚月葉。
「でも今はこうして護民官特権の椅子に座っている。」

ルシオラ。
「本当はこれが本来の展開だったのかもしれません。」
「私が滅びるのではなく。」

柚月葉。
「彼らはあなたを成長させる肥料になってしまいましたね。」

ルシオラ。
「われらを運命がどこへ率い。」
「どこに引き戻そうと。」
「あとに従おう。」

水琴ちゃんは一連の政変を見て。

平和(パクス)の確立。

「外なる平和」「内なる平和」について考察。

外敵が居なくなっても。

国で暮らす人々に平和が無ければ意味がない。

すべての政治の答えは「ふたつの平和(パクス)」にあると。

論文を新聞の記事に載せてもらえたもので。

これは感動を呼んで。

みことちゃんの潜在能力はかなりのものだと。

今年期待の新人となりました。

ただ。

新人賞はルシオラちゃんに持っていかれて。

「代わり」を用意されたのですが。


40


社会改革が実施されると発表がありましたが。

再構成になりますので。

古い皮を脱ぎ捨てるとか。

新しい制度を作るわけではなく。

自分たちの資質や特質のうち。

どれか捨ててどれを活かすか。

組み合わせる再構成。

運命共同体ならではの社会改革なのです。

時代の変化に合わせて再構築。

市民が最も欲しがっていた悲願が遂に。

実行されることになりました。

水琴ちゃん。

コンコルディア神殿の管理に推薦されたよ。

司祭が引退してしまい。

空白の期間を埋めるべく。

有能な人材を探していたそうで。

受け持つ事にしたんです。

司祭。
「望むのなら。」
「ずっと守り抜いて貰いたい。」

水琴。
「それは即答できませんが。」
「しっかり穴を埋めて。」
「崩したりはしません!」

コンコルディア神殿の中。

横には小さな執務室と一式が揃っていて。

外にも小さな施設が点在。

ひとりでちょっとした郊外の森に籠もり。

教えられた方法で滞在です。

神学者。
「無神論者は科学と宗教が対立するものだと考えているようです。」

水琴。
「それは残念ですね。」
「正しい宗教を信仰している人には。」
「科学を否定する人は居ませんから。」

神学者。
「未だ未解明なものはたくさんある。」
この世界の説明は人が勝手に決めたもので。」
「世界を正しく理解するには。」
「世界に対しては我々は無知であって。」
「偶然出来上がった世界観に浸かっている程度。」

水琴。
「そこまでの情熱はどこから来ているのか興味深いです。」

神学者。
「希望はひとたび信じられてしまえば。」
「長期にわたって保つものであり。」
「この希望という女神は。」
「たしかに不実なところはあるけれど。」
「うってつけの女神なのだ。」

水琴。
「希望は神様の与えるもの!?」

神学者。
「正しく理解するとそうなります。」
「私が描くのも同じで。」
「文学に楽しみだけを追求することにしても。」
「精神のこの気晴らしをたいへん人間的で自由人に値することだと諸君は判断されるであろう。」
「文学は青年の精神を研ぎ。」
「老年を喜ばせ。」
「順境を飾り。」
「逆境には避難所と慰めを提供し。」
「家庭にあっては娯楽となり。」
「外にあっても荷物にならず。」
「夜を過ごすにも。」
「旅のおりも。」
「バカンスにも伴となる。」

水琴。
青春真っ盛りなんですね。」

神学者。
「友よ。」
「我々はこれまでに不幸を知らずに来た者ではない。」
「ああもっと辛いことにも耐えてきたのだ。」
「これにも神は終わりを与えよう。」


礼拝する人がたまに。

神殿の中を歩いていますと。

女神様の姿がちらっと見えては消えて。

使いの妖精さんもちらっと。

コンコルディアとはラテン語で調和・融和を意味し。

コンコルディアは女神様であると教わりました。

何かの縁かな?

水琴。
「神と自然は同一のもの。」
「元来一体。」

科学者。
「それには賛成したい。」
「正しい科学者の中で。」
「神を認めない人は居ませんから。」

水琴。
「これはいろんな人に出会います。」

科学者。
「夢のような魔法を誰でも使えるように。」
「自然現象を人が操れるのです。」
「子供に還った気分ですよ。」
「神無き世界は無意味だ!」

水琴。
「少しお話しませんか?」

科学者。
「いいですとも。」
「何を知りたいかね?」

教えると言うより。

この人は特に目立って。

導くスタイルを取る人でした。

科学者。
「他人を尊重しないのは大人の態度ではない。」
「他人には敬意を持って接するべきだ。」

水琴。
「幼い者は我を張るものだと本で読みました。」

科学者。
「そうだ!本だ!」
「歴史を知ると古典が分かる。」
「歴史が何であるか知ることができれば。」
「もっと飛躍があるぞー。」

水琴。
「貴重な意見をありがとう。」

科学者。
「私も長居はするつもりなし。」
「あなたも大人になれるよ。」

水琴。
「シーユー。」

司祭。
「どうです?もう慣れましたか?」

水琴。
「出来そうです。」
「空白は埋まりそうもないですね。」
「巫女まで引退しているのですから。」

司祭。
「それまで頼みましたよ。」

水琴。
「失望はさせませんよ。」

しばらくコンコルディア神殿のメンテナンス。

管理職になっちゃいました。

巫女や司祭の手配で。

たぶん。

わたし。

整った時には事務員ですかね?

既に数人をスカウトしているそうで。

何かの縁なのかな?

幸運は盲目と言いますし。

神様が与えてくれた物は自分の物にしていいので。

健全な精神が健全な身体に宿りますように。

コンコルディア様に祈りを捧げました。


ローマ共和政・帝政ローマ「ユリウス・カエサル」生前に書き記した手記・のちに左派ブルータスが暗殺。

人間は自分が信じたいことを喜んで信じるものだ。(嘘を使ってガリア人に自分を攻めさせて返り討ちにした際の発言)

人間ならば誰にでもすべてが見えるわけではない。(手記の引用)

多くの人は自分が見たいと欲することしか見ていない。(手記の引用)

人は自分が見たいと欲する現実だけを見ようとする。(別の翻訳)


この世に産まれて彷徨っていく。

この世に産まれては。

彷徨っていくの。

この世の中に。

それは求められ。

尊い。

何かを。

求めて。

それだよ。

それだけのために私はここにいるよ。

それだけのために捧げて。

その先へと。

この世に隠され。

見つけられた。

この犠牲の果てに見つけて。

尊いものを求めていくのみです。

どこに行けば。

それに出会えるのかなと人は言う。

奇跡の中に。

求めればいいの?

この世の中に。

それは。

隠されて。

人は隠されたそれを求めては言う。

彷徨い歩く迷子で野垂れてしまうよと。