第1話-ミユーズ-
まるで大樹のような、しかし細く長いその花たち。
それは森のように辺りに広がり。
その星全体を飾る。
蝶々は思い思いに飛翔を楽しみ。
うさぎたちは人々の祝福を受ける。
ここは惑星「ふるーつ」
まるで花畑をミニチュア人間が歩くような、メルヘンな世界が広がる星。
開けたわずかな空き地に人々は家を建て、自然と共に暮らしながら幾多の時を往く。
地方の中心に立つ、超巨大な桜の木「ソメイヨシノ」はそんな人々の営みを遥か昔から見守り続け。
人々もまた、ソメイヨシノに想いを馳せる。
これはある町のおはなし。
桜木うめ市と呼ばれる、桜の木が多く存在する春のイチオシスポット。
ここに住む小桜もも、彼女はあることが楽しみで、そして待ち遠しかった。
市内の学校に通う女子高生のもも、今日は教室でソワソワしている。
もも「あーまだこないのかナー?」
目をキラキラ輝かせて嬉しそうに顔をあちこちに向ける。
隣にいるふぇりす、フルネームふぇりす・ベリー。
ロングで横髪が長く、髪には紫色の髪留めをしている。
ふぇりすはソワソワしているももを見て。
ふぇりす「わたしも待ち遠しい!どんな娘が来るんだろうなー?」
もも「遠くの地方から来るっていうから、もしかしたら姿が違うかも!?」
ふぇりす「もしかしたら背中に翼が生えてたりして?」
もも「きゃー!伝説の天使ってやつ?」
ふぇりす「だったらこう言ってやらなきゃ!」
「天使さん、今日は天界からどんな御用事で?ってね♪」
もも「もしかしたらわたしたちの願いを叶えてくれるかも?」
ふぇりす「きゃん!そんないい人が来るんなら早く見てみたい!」
すると先生が入ってきて、ホームルームを始めた。
いつもの起立からの着席でそれは始まった。
先生「今日はローゼン地方から転校生があります」
先生「ではミューズさん、お入りください」
すると扉から、女の子が入ってくる。
金髪で、明らかにクセっ毛。
カールが強く、いわゆるミディアムロング。
横髪が胸に届くか届かないかの髪型。
髪には星の髪留めがあり。
背が低く、まるでお人形のよう。
ももの第一印象は・・・。
もも「小さくてかわいい!」
ももは大声で言ってしまった。
ふぇりす「ちょっと!もも!」
ミューズ本人は青ざめた感じで、ももを見つめた。
先生「さぁミューズさん自己紹介を」
ミューズ「ローゼン地方から転校してきたミューズ・スターフィールドです」
「得意なものは変則性能率物理学と芸術です」
クラス全員がどよめく。
先生「変則性能率物理学とはなんでしょう?」
ミューズ「ローゼン地方から古くから伝わる科学です」
「物理学の応用だと思ってください」
先生「なるほど・・・特別大学で習うような内容なんでしょう・・」
ミューズ「好きなものは音楽を聴くことです」
「あと、言いたいことは、あそこでさっきわたしのことを小さいとか言った右分けの人」
「ももの種ってわたしのような小動物には害があるんですよね」
先生「え?」
もも「え?何言ってんの?」
ミューズ「席どこ空いていますか?」
先生「えとわーるちゃんの隣ですね」
えとわーる「いらっしゃいミューズちゃん」
えとわーる・ウェスパー。
ツインテールにヒマワリの髪留めの、幼女風の女の子が喋る。
「わたくしはミューズちゃんの気持ち分かります。」
ミューズ「怒っているのを察してくれるなんてありがたい人ですね」
先生「では、数学の授業を始めます、14ページを開いてください」
ふぇりす「ももの種?小動物?」
もも「なんだろう?」
ふぇりすとももは疑問に思いながら、ノートに執筆していると。
伝言メモが回ってきた。
えとわーるからだ。
メモの内容「ももの種は小動物には毒があります」
「ももさんに小さいと呼ばれて傷ついたんですよ」
「本人は気にしているようですし」
「ももの種は小動物が食べると痙攣します、つまりももさんを嫌ってるんですね」
もも「えー!?せっかくミューズちゃんをもふもふできると思ったのにー!」
また大声で言ってしまった。
ミューズはまた青ざめた。
先生「静かに・・・では続きを・・・」
授業は進み、休み時間になった。
生徒に埋もれるミューズ。
どこの町から来たのー?
ローゼン地方ってどんなところー?
お家はどこー?
めみくちゃにされて、水も飲めない。
するとももが割って入った。
もも「まだ慣れていないのにもみくちゃにしちゃだめだよ!」
「こういうのは事務所を通してもらわないと」
えー?がっかり。
また話そうね!
生徒たちはおとなくしくなった。
もも「まだ慣れてないなら昼休み校内を案内するよ」
ミューズ「え・・・?」
もも「そらっ!早く水飲まないと次が始まるぞ?」
その後も授業が進み、昼休みになった。
みんなお昼たべよー!
ももがみんなを集める、おろおろしていたミューズも強引に誘った。
もも、ミューズ、ふぇりす、えとわーるが屋上に集まる。
ふぇりす「お弁当タイム!」
ミューズが青ざめた。
もも「あれ?もしかしてお弁当持ってきてない?」
ミューズ「デイジー学校では給食・・・」
もも「なるほど、それっ!おにぎりをあげよう!」
「みんなも協力して!」
ふぇりす「わたしはサツマイモ蒸しをあげよう!」
えとわーる「わたくしはニンジンのステーキですね」
ミューズは泣き出してしまった。
もも「なんで?」
ミューズ「嫌いだなんて・・暗示的に言ったけど・・こんなに良くしてくれるのに」
「わたしったら・・・」
「なんてお礼をしていいのか・・・」
もも「お礼なんていらないよー♪」
ふぇりす「困ってるから助ける、ふるーつの基本道徳訓でしょ?」
えとわーる「ハンカチ貸しますね、まずは存分に泣いて・・」
ミューズ「こんな人と友達になりたい・・・」
もも「いいよー!友達になろう!」
ミューズ「え?」
ミューズがいきなり泣き止んだ。
ふぇりす「わたしの友達にもなるのだー♪」
えとわーる「わたくしのものでもありますよ♪」
ミューズ「みんな!」
ミューズはまた泣き出したが、ももがそっと抱いた。
ミューズが泣き止むと、楽しい昼食が始まり、ミューズは笑顔を取り戻した。
お昼が終わって、午後はちょっとした授業で終わり。
放課後になった。
もも「これからみんなで水源の翠蓋に行かない?」
ふぇりす「いくいく!」
えとわーる「久々ですね」
ミューズ「水源の翠蓋?」
もも「行ってみると分かるよ♪」
4人は背丈が10メートルある花畑に囲まれた学校を出て。
脇を花で飾られた、シンボルロードと呼ばれる道に出た。
チューリップの森を背景にしばらく歩くと、小さな商店街に入った。
もも「ここでスターボードを借りよう!」
すると丸太のような建物の中に「レンタルボード屋」と書かれた看板があり。
星の形をした大きな板が置いてあった。
ミューズ「こーゆー所にあるのは最低限の性能しかないから、遠くにはいけないと思う」
ふぇりす「ちっちっち!ここのオーナーはもものファン♪」
オーナー「いらっしゃい!」
もも「いつものやつ♪」
ももは満面の笑みでオーナーに語りかけた。
オーナー「おー!今日はかわいいお譲さんも連れてるねー♪」
「いつものやつ好きに使いなー代金はいらん」
「その笑顔で10年分はもらってるからねー♪」
もも「はい!どう?最新型♪」
ミューズ「すごい・・・風花原理で動く最新型だ・・・」
えとわーる「従来の空気の上に乗るだけではなくて、空気の層をつくりながら飛ぶ、とありますね」
ふぇりす「早速しゅっぱーつ!」
4人は板をまるで紙を持つかのように持ち上げると。
レンタルボード屋の通りにある、ヘリポートと滑走路の融合体のような所に行き。
ひょいっとスターボードに乗った。
ミューズも乗ると、まったく浮遊がブレないことが分かった。
ミューズ「すごい安定性・・・」
もも「ひまわり地方自慢のスターボードなのだー♪」
それっ!
4人はジャンプのポーズをとると、スターボードが急上昇!
続いて前に重心をとる体勢に入ると、スターボードが時速40キロくらいで飛行を開始した。
途中ひまわり畑や、コスモス畑、100メートル級の巨大な木、木の上にある集落。
飛び回る蝶々、いろんな光景が目に入った。
途中、白いハト12羽がスターボードに追従して4人を楽しませた。
ふと見ると空には虹がかっていて、ミューズは花畑上空でみんなを止めた。
ミューズ「わたし歌います!」
もも「わー!歌ってー!」
それは天使のようで、澄んでいて、無邪気な歌声・・・。
ももたちはうっとり聴き入って、バックの虹も祝福していた・・・・。
もも「これはまるでにじいろみゅーじっく!」
歌い終わると拍手喝采、ミューズは嬉しくて顔を赤くした。
20分ほど飛行を続け、木の枝の密集地帯に入って行った。
着地して数秒で、ミューズは少し怖くなった。
ミューズ「こんな薄暗い場所に来たけど?」
もも「しばらく歩くよ、進んで」
辺りはところどころ川が流れ、黒い猫が数匹ウロウロしていた。
えとわーる「感覚図ではここらへんですね」
もも「じゃあここを過ぎると・・・あっ!」
小枝のトンネルをくぐったとたん。
ホタルの光の玉が辺りにたくさん浮遊し。
大きな湖、それも地底湖を思わせるような幻想的な風景。
地面には花が広がり。
まさに神秘だった。
もも「どう?ミューズちゃん」
ミューズ「きれい・・・」
ミューズはみとれていた。
4人は座り込んで、しばらく水面をじっと見ていた。
ミューズ「ミューズじゃなくてみゅーちゃんでいいよ」
もも「いいのー?じゃあみゅーちゃん!」
ミューズ「えへ♪」
ふぇりす「あたしのことはふぇっちゃんって呼ぶのだー♪」
ミューズ「じゃあふぇっちゃん♪」
えとわーる「わたくしはえーちゃんでいいですよ」
ミューズ「りょーかい♪えーちゃん♪」
もも「これからよろしくね♪」
ミューズ「うん♪」
ホタルの光はまるで4人を祝福するかのように輝き続けた。
ミューズ「この調子で友達100人いきたいなー」
「そうしたら全員をお家に招待するの!」
もも「それは素晴らしいパーティーになるね!」
4人はお笑いして、水源の翠蓋を後にした。
その夜、ももはミューズを食事に誘った。
花で飾られた、リンゴのようなかわいい家に到着すると。
ミューズはベルを鳴らした。
こんばんわー!
はーい!
ももとその両親が出迎えた。
中はシンプルな作りで、台所がかわいく装飾されていた。
もも「お料理運ばれてくるよー?」
ミューズ「これは・・お花?」
もも「お花の中にはねー食べられるものもあるんだよー?」
母親「たくさんお食べ♪ヒマワリ地方自慢の花の食材ですよ♪」
ミューズ「おいしい!」
もも「こっちのフラワーソースもかけてみて」
ミューズ「あまい!あまい!すごーい!」
もも「でしょ?こっちのブルーベリーパイもいけると思うよ?」
ミューズ「ヒマワリ地方にはなんでもあるねー!」
もも「あるよー!もっと知らないもの見せてあげるー!」
ミューズは笑顔で。
ミューズ「花を食べるなんてこれはまるで天使の食卓!」
もも「天使さん、天使さん、何か叶えておくれ」
ミューズ「わたしは天使、願いはなんぞや?」
もも「めいっぱいの笑顔を頂戴!」
このやりとりがおかしかったらしく、ミューズは笑って満面の笑みを浮かべた。
存分に料理を堪能し、とても仲良くなったももとミューズ。
別れ際にミューズに手を振るもも。
もも「じゃあねーまた学校で!」
ミューズ「うん!今日はありがとう!」
ミューズ「天使の踊り場ってここのことだよね!」
もも「そうかもしれないね、じゃ!」
ミューズは月が照らす、まだうっすら明るい道をしばらく歩き。
スターボードに乗って帰って行った。
天使が踊る、それは星に導かれた出会いだった・・・。